129話 アルゲーノ vs ケビン(2)
おれはヘトヘトになりながらも、守り主体で攻めるアルゲーノと戦い続けた。
おれは魔力をかき集め、全力で剣を振り下ろすだけ。
ただ、いつかチャンスが巡ってくると信じて。
「ケビーン! がんばれー!」
「負けるなケビン!」
クラスメイトたちの声援が聞こえる。
別にあいつらのことなんて好きじゃねぇけど、嫌いでもねぇ。
ただ、応援の言葉をかけられることは不思議と嫌ではなかった。
そんな中、おれの耳にハッキリと声が聞こえた。
「ケビン! お前ならできるぞ!」
「ケビンにぃー、がんばってー!!」
懐かしい声が……おれが村に置いてきた家族や親族たちの声が確かに聞こえた。
おれは思わず会場の観客席を見上げる。
すると、そこにはおれが何よりも大切に想う家族たちがいるのであった。
おれの大好きだったおじさんもいて、おれへの声援を送る。
なんだよ……これ。
余計に負けられなくなっちまったじゃねぇか。
こんなおせっかいなことをするやつ、あいつしかいないよな……。
おれはベンチに座るアベルを見つめる。
——ったく、ほんとにお前はお人好しだな。
だが……ありがとう!
おれの身体に再びチカラが湧いてくる。
まだまだ、おれはやれるぞ!!
◇◇◇
ケビンがおれの方を見たと思ったら随分と動きが良くなった。
もしかして、おれが父さんと母さんに頼んで仕組んだアレがバレたのか?
まぁ、ケビンもおれと目があったときに笑っていたし怒ってはないのだろう。
「おぉぉっと! ケビン選手、ここに来て再びスピードが上がりましたぁぁああ!!」
ケビンの斬撃が、一突きが、アルゲーノの防御魔法で作られた要塞を襲う。
ウォォォォオオ!!!!
もちろん、ケビンの魔力量でアルゲーノが本気で発動している防御魔法は砕けない。
だが、これによって観客たちがケビンの勇姿に対し、盛り上がりを見せはじめる。
「ケビンくんになんか頑張って欲しいな」
「わかる! なんでだろうな?」
少しずつ、少しずつケビンの声援が大きくなっていく。
そして——。
「アルゲーノ様! 正々堂々と戦ってください! おれたちは王子の勇姿を観に来たんですよ!!」
一人の青年が声を上げた。
その言葉に周りの者たちも声を上げはじめた。
「そうです、私たちに見せてくださいよ! 中等部主席の王子がこんな戦い方でいいんですか? 真っ向から挑んでくれる相手のケビンくんに失礼ですよ!!」
「チカラとチカラと勝負じゃダメなんですか? それじゃ、Fクラスのケビンには勝てないんですか? 次期国王として貴方のチカラを見せてください!!」
勝負!! 勝負!! 勝負!!
会場に勝負コールが巻き起こる。
おれにはいったいどうしてこんなことになっているのかわからなかった。
だが、観客たちの声を聞いてハッと気づいた。
そうだ、観客たちが見たいのは王国の未来を担う子どもたちの勇姿なのだ!
先ほどのネルの試合。
ネルは天才魔法使いアリエルにボロボロになりながらも立ち向かった。
そして、ネルは努力によって身につけた限界の魔法を見せてくれた。
そんなネルに対し、アリエルも自分の限界を出して戦ってくれた。
両者の限界の超えるチカラとチカラのぶつかり合い。
そんな素晴らしい試合を見せてくれた二人に観客たちは絶え間ない称賛を送っていた。
次の試合がはじまる寸前までだ!
そんな中ではじまった次の試合がこれだ。
アルゲーノの一方的な耐久戦。
見せ場など何ひとつない単調な試合だ。
アルゲーノの鉄壁の防御魔法こそ最初はウケはしたが、それで決着が付くわけでもない。
ただ、同じことを繰り返しているだけ。
それをさっきの名勝負の後にだらだらと30分以上も見せられているのだ。
そら、観客たちも王子とはいえ何か言いたくなるよな。
だって、王子は正々堂々と戦っても勝てる実力がありながらこの戦法を使っているのだから——。
そんな中、ケビンはいつまでも諦めずに不屈の闘志を持って常に限界に挑戦している。
観客たちの心は徐々に、最強たるAクラスのアルゲーノから努力し続けるFクラスのケビンへと流れていったのだ。
別におれはアルゲーノの作戦はとてもいいと思う。
自分と相手の能力値を考慮した上で最も効果的な作戦だ。
ケビンと正々堂々と戦えば勝てるにしても、スピードの高い彼に魔法を当てるのは至難の技だ。
武闘会は明日もある。
通過点でしかないこの試合で魔力を無駄に使いすぎるわけにもいかない。
それ故のこの戦法だったのだろう。
だが、おれもアルゲーノも勝敗だけに気を取られ過ぎていて大事なことを忘れていた。
これは武闘会であり、ただ勝ちさえすればいい戦争や殺し合いではないのだ。
観客やスカウトたちへのパフォーマンスも含めての武闘会だ。
それをおれたちは忘れていた。
アルゲーノはこの会場の流れを察知し、防御魔法を解く。
「クソが! 下民どもがこざかしい」
アルゲーノは文句こそ言っているがケビンと直接勝負をする気になったようだ。
「やっと出てきたか……待ってたぜ王子様」
ケビンはようやくアルゲーノと直接戦えることに笑みをこぼす。
「調子に乗るなよ獣人……。お前如きに敗れるおれではない」
「おぉぉっと! 観客たちの突然の勝負コール! そして、アルゲーノ選手がそれに応えました!! さぁ、いったいどのような名勝負を我々に見せてくれてるのでしょう?」
うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!
先ほどまで文句を言っていた観客たちもアルゲーノのこの行動に歓声を上げる。
会場のボルテージも最大限に上がった。
さぁ、ケビン!
時は来た!
あとはここでお前が活躍すればいいだけだ。
そうすればきっと、お前の夢は叶うはずだ。
「
ケビンの疾風の一撃がアルゲーノを襲う。
だが、アルゲーノはそれに剣で対応する。
二人の剣の打ち合いが今はじまった。
互いに剣に魔力を込めている。
それによって、打ち合いでは激しく火花が舞い散る。
どうやらアルゲーノは魔法剣士だが、ここでは剣士としてケビンと戦うようだ。
おそらく、観客たちの目を気にしているのだろう。
まだまだ余力のある彼がここで魔法を連打してケビンを潰せば2万人の観客たちからブーイングが起こるのは目に見えている。
だからこそ、少しでもケビンと互角に戦えるように剣術で戦っているのだろう。
「どうした? 剣術はお前の得意分野なんだろ。それがこの程度か?」
アルゲーノは元々剣の達人だ。
さらにケビンは既にかなり
彼が剣術で勝負を挑んできたといっても劣勢なのは変わらない。
「おれはあんたらみたく天才じゃないんでね。だけどね、普段打ち合ってる
ケビンは必死にアルゲーノの剣さばきに対応する。
まさに鬼の形相で剣をふるっている。
「ケビン!! いけぇぇぇぇええ!!!!」
その一刀は、今日彼が見せたどんな一振りよりも速かった。
アルゲーノは察した。
これには反応できないと。
ケビンの剣がアルゲーノの剣をはじき、後方へと飛ばされる。
アルゲーノは完全に無防備になった。
この距離でこのままケビンの追撃を受ければ致命傷は免れない。
アルゲーノは魔法を発動させる用意はしていなかった。
今から魔力操作などをしても間に合わない。
完全にケビンの勝利だ。
ゆっくりと、本当にゆっくりと流れる時間を感じた。
ケビンの剣先が自分の方へとゆっくりと方向を変える。
これからあれに、斬り裂かれる……。
ゆっくりと、ゆっくりと彼の剣が自分に向かって来た。
アルゲーノは歯を食い縛りながら敗北を受け入れる。
しかし、それが彼の肉体を突き刺さることはなかった。
ケビンの剣は地面に突き刺さったのだ。
ケビンは全てを出し切って力尽き、倒れてしまったのだ——。
ハリスさんが崩れ落ちたケビンに駆け寄り、状態を確かめる。
そして——。
「ケビン、戦闘続行不能! 勝者アルゲーノ!!」
「おぉっと!? 何という幕切れでしょう! ここでケビン選手が力尽き、アルゲーノ選手が勝利しましたぁぁああ!!」
試合場の中央には不満そうに立たずむアルゲーノと精霊たちに介護されるケビンがいた。
会場からは最後まで勝負を諦めずに戦い抜いたケビンに彼の勇姿を讃える盛大な拍手が送られたのであった。
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