117話 武闘会開幕(1)
かつて学校を嫌っていたおれが学校に通って
最初は授業にまったくついていけずに
友人関係は入学して早々、入試で絡まれたケビンと同じクラスだとわかって落ち込んでいたけれど、今ではケビンとも仲良くやっている。
それにネルがいつもおれの側にいてくれたのも大きい。
他のクラスメイトたちとはいまだに距離はあるけど、別に全員と仲良くしなきゃいけないこともない。
楽しく学校生活を送れていることが一番重要なのだ。
学校嫌いだったおれを変えてくれたネルとケビン。
そして、この二人と迎えた武闘会当日。
今日のためにおれも全力で準備を進めてきた。
二人の夢のためを叶えるために絶対に優勝するぞ!
◇◇◇
「えーっ、みなさんおはようございます。本日はみなさんが待ちに待った武闘会です。この日のために各クラスの代表選手たちは自分たちの持つ力を——」
学長あらため校長先生の長い話が始まる。
こういった話が長いのはどの世界でも同じなんだな。
「また、本日は歴史ある武闘会におけるみなさんの勇姿をひと目見ようと、遠方から
そうだ。
今回の武闘会は王国のお偉いさんたちはもちろんのこと、世界中からも多くのお偉いさんが来るようなのだ。
世界中と言ってもほとんどがフォルステリア大陸の国家からみたいだけどな。
もちろん、父さんやハリスさんが嫌っていた国王ダリオスも来ている。
「それでは私からの挨拶はこの辺で終わりとさせてもらいます。みなさんの健闘を祈っています」
校長先生の長い話が終わった。
そして、次に挨拶をする者の顔が巨大なモニターに映し出される。
それはおれが初めて目にする国王ダリオスの姿であった。
「この武闘会でこれから王国の未来を
そして、中央のモニターはまた別の人物を映していく。
えっ?
国王陛下のお言葉ってあれだけ!?
どうやら噂に聞いていたとおりの人物なんだな。
ネルが言うには、国王というのは本当はカルア高等魔術学校の入学式には来るはずらしい。
しかし、今の国王になってからは一度も入学式に参加していないようだ。
それでおれも今日初めて自分の暮らす王国の国王を見たのだった。
流石に武闘会の方は世界中から重要人物たちが来るために出席しているらしいが本当は武闘会の見学もしたくないのだろうと話していた。
本当にあれが国王でいいのか?
おれはそう思ってしまう。
ウォォォォオオオオ!!!!
会場が急に盛り上がる。
アリーナの試合コートにいるおれたち生徒だけでなく、一般の観客たちのいる観客席からも歓喜の声が響いてくる。
別にこれは国王陛下の言葉にみなが感動したわけではない。
ある人物の登場にみんな沸いているのだ。
この王国の繁栄の歴史に常に関わってきた伝説の精霊ハリス。
彼女の登場に先程まで
ハリスさんは会場中に手を振って国民たちの声に応えていた。
彼女は本当に国民たちから愛され、崇められている精霊なのだと実感する。
辺りの歓声が止み静かになったところで最後に生徒会長が選手宣誓を行うようだ。
もちろん、彼がハリスさんのもとへと向かっていく。
そして、中央のモニターはイケメン眼鏡のレイ=クロネリアスとハリスさんを映し出す。
この生徒会長が率いる3年Aクラスがおれたちの最大の宿敵だ。
「宣誓! 我々選手一同は、日ごろの鍛錬の成果を発揮し、これまで支えてくれた両親、学校、そして王国の期待に応えるため正々堂々と試合を行い、全力を尽くすことを誓います!」
こうして武闘会が開幕したのであった。
今日、明日の2日間。
この2日で人生が決まる生徒たちも出てくる。
おれたちはまだ2年分のチャンスはあるように見えるが、来年以降に必ず活躍できるとは限らないのだ。
対戦相手の選手やクラスが強ければ一度しか試合を見てもらえない上に負けたシーンが印象づく。
常にスカウトたちの目に留まれるように毎年全力で挑む必要があるのだ。
そして、気になるおれたちの対戦相手は……。
「さぁ、それでは本日の実況と解説をするのはわたくし3年Dクラスのグラーツと!」
「はいはーい、わたくし2年Bクラスのパーシャルでーす!」
会場中に男と女の音声が鳴り響く。
どこかに放送席があるのだろう。
「それでは、ただいまより第611回武闘会のトーナメント表を発表しまーす!」
ノリのいい女の声が響く。
会場を見渡すと上の観客席の方から放送をしているのが見えた。
確かにあそこなら試合を上から見られるし、実況するのにいいかもな。
「はい! それではモニターをご覧ください!」
そして、中央モニターには今回の武闘会のトーナメント表が映し出される。
おれは自分たちの1年Fクラスを探す。
おっ、あったな!
初戦の相手は2年Cクラスだ。
そして、それに勝つと一つシードされているサラたちの1年Aクラスとの試合だ。
優勝候補の3年Aクラスと当たるとしたら、さらに2勝して決勝戦までいく必要がある。
下克上のストーリーとしては完璧だ。
上級生を倒し、Aクラスを倒して勝ち進み、そして決勝で去年優勝の王者を倒す!
あとはこの通りに物語を進めるだけだ。
「それでは第1試合は1時間後に始まりまーす。第1試合に出場する3年Fクラスと2年Dクラスの代表選手は準備をしておいてくださいねー」
おれたちの試合は第3試合だ。
まだまだ時間はあるし、一応ここからは自由行動だ。
「2回戦でセアラちゃんたちと当たるのは嫌ね……」
ネルは困った顔でそう語る。
「だが1日目に1年Aクラスと当たるのはでかいだろう。2日目は連戦で3年Bクラス、3年Aクラスと戦うことになりそうだからな。その前に1年Aクラスとやらなくて済むのはありがたい」
こう話すのはケビンだ。
ケビンの言う通り、今日は2回戦までの合計10試合しか行われない。
1日目と2日目でサラたちと生徒会長たちとの戦いが分かれたのは大きいだろう。
「まぁ、そうとも言えるか。それじゃ、試合まで何する?」
「おれはちょっと父さんたちに挨拶してくるけど二人も来るか?」
おれは試合を観に来てくれた父さんたちのところに向かおうとしていた。
家でも少し話したのだが、よければ同じ代表の獣人の二人とも話してみたいと言われたのだ。
おれはさりげなく二人を誘ってみる。
「やる事もないんだし、いいんじゃないか?」
「私、マルクス大臣と話してみたい!」
うん、どうやら二人は一緒に来てくれるようだ。
こうしておれたちはアリーナの試合場から一旦出て、上の観客席の貴族たちが座る席へと向かった。
◇◇◇
観客席は人で混雑していた。
そりゃ2万人も来るとなればこうなることは予想はしていたけれど、それでも実際に自分の目で見ると驚くものがある。
おれはネルとケビンとはぐれないようにくっついて移動する。
すると、おれを呼ぶ声が聞こえた。
「アベルくーん!!」
聞き間違いだろうか?
女性の声が聞こえた。
「なんかお前、呼ばれてないか?」
ケビンも聞こえたようだ。
おれは辺りを見回すと、おれの方に手を振っている人を見かける。
青髪で眼鏡をかけたお姉さんだ。
めちゃくちゃ可愛くてナイスバディである。
だけど、あんな人知り合いにいたっけ?
でも、どこかで見たことはあるんだよな……。
「おい、マジかよ……」
ケビンはお姉さんを見て驚く。
どうやらケビンは知っている人のようだ。
そして、お姉さんはおれたちのもとへとやってきた。
「おはようアベルくん! アベルくんも武闘会に参加するの?」
「えっ……はい。一応代表選手です。えっーと、どちらでお会いしましたっけ?」
おれは眼鏡お姉さんに質問をする。
すると、お姉さんは自分が認識されていなかったことに気づき改めて自己紹介をする。
「あっ、一度しか会ったことなかったもんね。王国本部の冒険者ギルドで副ギルドマスターをやってるエマよ。ほら、前にうちに来てくれたでしょ?」
「あー! あのときの!!」
おれはやっとこの美人お姉さんを思い出す。
ヴァルターさんからもらったリナをニアに両替えするときに訪れた冒険者ギルドの副ギルドマスターだ!
「あのときはお世話になりました」
「そんな、ヴァルターさんに紹介されたアベルくんに失礼なことなんてできないわよ」
おれとエマさんはたわいもない話をする。
「それで、エマさんはギルド関係者ということで武闘会を観に?」
おれはエマさんに尋ねてみる。
もしかしたら武闘会で活躍した選手を冒険者としてスカウトするのかもしれない。
「そうじゃないわ。冒険者って基本スカウトじゃなくて自己申請だからね。わたしは弟が武闘会に出るから見に来たの。でも、今日は試合がないみたいね」
どうやらエマさんは弟さんがいるらしく、その弟を見に来たそうだ。
「へぇー、弟さんがいるんですか!」
「そうなの! 素直でとっても可愛いのよ!」
エマさんは笑顔でそう語る。
へぇー、仲のいい姉弟なんだな。
「あっ、引き留めちゃってごめんね! アベルの試合、絶対見るからね!!」
「はい、ありがとうございます! 弟さんにもよろしくお伝えください」
こうしておれはエマさんと別れる。
おれとエマさんの会話を聞いていた二人は……。
「お前ってやっぱりコネの塊なんだな……」
「ヴァルターさんって、あのヴァルター様!? 七英雄ロベルト様の血を引く冒険者ギルドグランドマスターのヴァルター様!?」
ケビンはやれやれと言った反応でネルは大興奮している。
「まっ、まあね……。でも、コネって大事だろ? ほら、いざと言うときに役立つからさ」
おれは二人に苦しい言いわけをする。
おれだって好きで大物たちと知り合いになっているわけではない。
旅をしていたら勝手に知り合っていったんだ。
「だからクラスメイトからコネルなんて呼ばれるんだ。これでお前がハリス様とも知り合いとかだったらおれは友だちやめるぞ」
「えっ! もしかしてハリス様と知り合いだったりする? 流石にそれはないよね!?」
ケビン!
お前は勘が良すぎるぞ!
だが、ここは黙っておこう。
「さぁわ父さんたちのところへ向かうぞ!」
こうしておれは二人の言葉を振り切ったのであった。
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