107話 ケビンの騒動(2)

  「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇよ!」


  野次馬やじうまの一人がおれに殴りかかってきた。

  どうやら、さっきまでのおれの発言に苛立いらだちを覚えたようだ。


  おれは一瞬ためらったが抵抗することにする。

  野次馬の男子生徒のパンチを右手で受けとめた。


  パァッッン!!


  思ったほど強くはなかったな。

  12歳のおれと体格差はあるもののヒリヒリとする程度だった。


  「なんだと!?」


  男子生徒は驚きながらもおれへの敵意はまだあるようで次の攻撃に移ろうとする。

  これ以上やり合うのは面倒なのでちょっと右手に力を入れてみる。


  「痛てっ……ぐわぁぁぁあああ!!」


  おれに絡んできた男子生徒はおれに右手を軽く潰されかけ、崩れ落ちて膝をつく。

  そこでおれは解放してやる。


  「よくもやってくれたな!」


  周りにいた野次馬たちが騒ぎ立てる。


  これはもしや全員を相手にしないといけないのだろうか?


  次々に殴りかかってきたり、蹴りを入れてこようとする野次馬の人間たち。

  おれは一人ひとりの攻撃を受けとめるなりかわすなりの対応する。


  そして、いつまでも終わらないと踏んだおれはカウンターを加えはじめる。

  腕を捻ったりローキックを入れたりとだ。

  そして、少しずつ野次馬たちが減っていく。


  お前らが攻撃をやめればおれも反撃はしないんだけどな……。


  だが、そんなおれの願いも虚しく事態は最悪の展開へと向かっていく。


  「うっ……し、死ねぇーーーー!!」


  謎の戦闘力を持つおれに恐怖したのか一人が魔法を発動した。


  おい!

  ここは学校内だぞ!?


  おれに向かって煉獄れんごくの炎が襲いかかる。

  そこで、ひとまずおれは氷の盾アイスシールドを展開して防ぐ。


  なんとか身を守ることができた。

  クラスメイトたちの魔法とは威力が違ったな。

  これがFクラス以外の実力か。


  だけどお前正気か!?


  学校内で不用意な魔法を使うのは校則違反だったはずだろ。


  「み、みんなやっちまえーー!!」


  一人の男子生徒のかけ声を皮切りに野次馬たちが魔法を発動する。


  「火弾ファイヤーショット!」


  「土刃アースダガー!」


  「風刃ウインドダガー!」


  様々な魔法が飛び交う愉快な展開になってきた。


  おれはそれらを一掃する!


  ——っていうのはいくらなんでも流石にまずいよな。

  正当防衛のひと言では片付かないことになるだろう。


  そこでおれは防御魔法で防ぐことにした。

  氷の盾アイスシールドを複数展開して全ての攻撃魔法を防ぎきる。


  「なっ……なんなんだよあのガキは!」


  「氷属性魔法を無詠唱だと? 本当にFクラスなのか!?」


  「それよりどうするんだよ……今度はおれたちがやられる番だ……」


  野次馬たちはおれに攻撃が全く通用しないとわかると体を震わせて怯えはじめる。


  これって完全にはたから見たらおれの方が悪役だよな。


  やつらは半分近くが倒れ込み、残りの半分はおれに怯えてしまっている。

  だがこれで争いは終わったな。


  するとアルゲーノがおれに話しかける。


  「ほぅ、随分ずいぶんとおもしろいやつだな。おれが直々に相手をしてやろう」


  そうか、お前自らおれと戦うというのか……。

  いいだろう!

  その代わり、お前が負けたらしっかりとケビンに謝罪をしてもらうぞ!!


  おれはアルゲーノと相対する。


  おれは両手に冷気をまとい、アルゲーノは両手に炎を纏う。


  おれとアルゲーノが戦いが今にもはじまろうとしていたときだった。



  「会長! あちらです!! あいつらです!!」



  遠くから女の声が聞こえる。

  そして——。



  「そこまでだ! お前ら何をしている!!」



  男の声が辺り一帯に響き渡った。


  おれは声がする方を振り向く。

  すると、入学式のときに見た生徒会長の男がそこにはいた。

  その眼鏡の奥からは厳しい視線が向けられる。


  これはまずい気がしますね……。


  「けっ……面倒なやつに見つかったな」


  アルゲーノはひとりごとをつぶやく。


  王子であるアルゲーノでさえそう言うということはおれにとって最悪のことなのだろう。

  今の状況からしておれとアルゲーノが魔法でドンパチやったように映っているはずだ。

  どうにかして状況を説明しないとな……。


  「お前ら、あの二人以外の保護は任せた」


  生徒会長は背後にいる二人にそう伝える。


  一人は先程叫んだと思われる女子生徒。

  茶髪のショートカットの人間で背はあまり高くない。

  生徒会長の指示に従って倒れている野次馬たちの保護をする。


  そして、もう一人は生徒会長と同じくイケメンの男子生徒。

  金髪の短髪の人間でスラリとした長身だ。

  二人とも背丈やスタイルは似ている。

  あと、生徒会長はハンサムでこの男はイケメンといった感じだ。

  彼はこの場から逃げ出そうとする野次馬たちを制圧する。


  「こら! お前ら、大人しくしろ!!」


  逃げ出そうとしていた野次馬たちの足もとが崩れる。

  それにより野次馬たちは転んでしまいイケメンのお兄さんに捕まる。

  あれは前にバルバドさんが使っていた魔法だ!

  土属性魔法の応用なのだが案外難しい。


  あの男、10代の人間にしてはなかなかやるな。


  それより、貴方たちは魔法を使ってもいいんですね。

  まぁ、生徒会長直属の部下っぽいもんね。


  そして、生徒会長がおれたちのもとへとやってくる。


  「これはどういうことだアルゲーノ、アベル」


  えっ……。

  なんでこの人おれの名前を知っているんだ?


  「どうもこうも、そこの獣とこの劣等生がおれに生意気な態度を取ってたからシメてやろうと思っただけだ。他の連中は知らん。こいつとあいつらの問題だ」


  アルゲーノは生徒会長にそう話す。

  それに対して生徒会長が応える。


  「お前は何度言ったらわかるんだ。この学校においては全ての生徒が平等だ。それはお前がこの王国の王子であろうが関係ない」


  なんだろうこの貫禄かんろくは……。

  本当に同じ高等部の生徒なのだろうか。


  「うるさいやつだな……。わかったよ、今度から気をつけるよ」


  アルゲーノは嫌々そうに生徒会長に告げる。


  「いいや、お前には謹慎処分を言い渡す。詳しくは教師陣とも話し合う。後で主担任から連絡があるだろう」


  「ちょっと待て! なんでおれがそんなことになるんだ!?」


  アルゲーノは生徒会長に抗議する。

  しかし、生徒会長も一歩も引かない。


  「それが規則だからだ。お前はいつまで中等部時代の甘えた気分でいるつもりなんだ?」


  生徒会長は王子であるアルゲーノに一切屈することなく話し続ける。


  この二人は中等部時代からの知り合いなのか?


  「あぁ、わかったわかった! 勝手にしろ」


  アルゲーノはそう言うとおれたちを置き去りにして立ち去ってしまった。


  「アルゲーノ様! お待ちください!」


  アルゲーノの取り巻きたちと思われる二人の男子生徒もそれに続く。


  あいつは謹慎処分か。

  本当はケビンに謝罪してもらいたかったけど今はこれで我慢するしかないだろう。


  「アベル、何を安心した顔をしているんだ。お前にも謹慎処分を言い渡す。あいつ同様詳しくは追って伝えることになる」


  生徒会長は事件がひと段落して落ち着いたおれに謹慎処分を言い渡す。


  はい?


  「どうしておれまで!?」


  事件の発端はアルゲーノだぞ?

  それにおれは全部正当防衛だ!


  「目撃者によるとお前は他の生徒たちに危害を加えていたそうだな。状況はこれから事情聴取をしていくがお前が他の生徒を傷つけたということに変わりはない。大人しく処分を受けるんだな」


  嘘だろ……。

  なんでこんなことになるんだよ……。




  ◇◇◇




  こうしておれは午後の授業に本当の補習を受け、そして放課後にはドーベル先生から今回の騒動に関する処罰の通知を受けた。


  おれに言い渡された処分は一週間の謹慎だった。


  ちなみにアルゲーノの処分は三日間の謹慎で、暴動に加わった野次馬たちの処分はおれと同じく一週間の謹慎だった。


  おれは入学して一週間目にして謹慎処分を受けるハメになってしまったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る