104話 実技授業に初参加(1)
——君は実技に参加できないよ——
『来年から私のクラスで学校生活を送るといい』なんて面接のときにおれに話していたドーベル先生からのまさかの仕打ち。
先生!
いったいこれはどういうことなんですか?
おれはもう耐えられませんよ!
別に魔法を使って『俺TUEEE』したいわけじゃないんです!
ただ、周りのクラスメイトたちに哀れな目で見られるのがつらいんですよ……。
女子たちの多くはおれが先生たちにいじめられていると思って同情してくれています。
直接は言ってこないですが『かわいそう』だの『助けてあげたい』だの陰で言ってるわけですよ。
それにネルが言うには、女子たちの中ではおれのことを『ちょっと幼くて可愛い』という子たちまで現れているらしいんです。
それがおもしろくないのか一方でクラスの男子たちはおれのことを明らかに嫌ってるんですよね。
それでおれがレポートをやっていると遠くから陰口を叩かれるわけですよ。
『あいつの名前って……やっぱそうだよな。ヴェルダン家の人間だよな』
『いつも補習させられてるけど、本当は魔法が使えないんじゃないか?』
『コネか……。これだから貴族のボンボンは嫌いなんだよな』
彼らはおれに聞こえる声で言ってくる。
本当につらいんです!
おれはコネで入ったわけじゃないし、父さんはそんなことする人じゃありません!
あれ、おれって一応推薦枠の受験だったんだっけ……。
でも、ちゃんと実技試験で合格を勝ち取ったんだ!
ハリスさんの協力はあったけどね……。
いや、それはともかく!
男子たちの中でも特にケビンに加え、以前彼と揉めていたゲイルという体格のいい男子はおれをガチで嫌っているっぽい。
ケビンはおれが視界に入ると嫌な顔をするし、ゲイルは取り巻きたちにおれに聞こえる声で悪口を言ってくる。
それもこれもきっとおれが実技の授業に参加できないからだ!
授業に参加できればこんなことにはならないはずなんだ!
たぶん……。
しかし、そんな日常とも今日でおさらばさ!
ついに授業開始四日目にしてようやくドーベル先生の授業がやってきた。
これでおれも実技授業に参加ができるのだ!
◇◇◇
それはのどかな日の午前の授業、おれたちFクラスは座学を終えて第8アリーナに集まっていた。
そして、これから実技の授業がはじまろうとしている。
おれたち生徒の前に立つのは痩せた白髪のおじさんであるドーベル先生。
彼は今日の授業の概要を話しはじめた。
「私の授業では君たち個人のスキルに関わらず、様々な魔法の習得を目的としています。今日からしばらくは基本属性の4種類の魔法を覚えることを目的としましょう」
基本属性とは火・水・風・土の4つの属性のことだ。
この世界ではスキルを持っていない魔法は習得が難しく、使えるようになったとしても消費魔力が多かったり効力が少なかったりと非効率であったりする。
それでも一流の魔法使いというのは基本属性の簡単な魔法ならばひと通り使いこなせるようなのでこの学校でもそのような教育をしているのかもしれない。
「他の実技でもそうだと思いますがグループを分けましょうか。まずは攻撃魔法の訓練からです。『魔法使い』のスキルを持っているグループと持っていないグループで分かれましょう」
ドーベル先生はおれたちに指示を出す。
おれは入学してからこの四日間、クラスメイトたちの魔法を見てきて色々とわかってきた。
まず、当たり前かもしれないが『魔法使い』のスキルを持っている者たちは多い。
だいたい7割近くの生徒が持っている気がする。
そして、他にも『剣士』や『治癒術師』、『精霊術師』に『鍛冶師』など様々なスキルを持っていると思われる生徒たちがいる。
さらに、人間は固有スキルを1つから3つ持っているわけだが3つ持ちは人口の1%、2つ持ちは20%でほとんどの人間はスキル1つ持ちなのだ。
それなのにここにいる生徒たちはほとんど2つ以上のスキルを持っているようだ。
落ちこぼれのFクラスとはいえ流石は世界最高峰の魔術学校である。
ちなみに獣人のスキルに関する情報は知らない。
さぁ、これからおれはこの優秀な生徒たちと切磋琢磨しながら
補習させられまくっている落ちこぼれの中の落ちこぼれなんていうレッテル貼りは今日でおさらばだ!
おれはやる気満々で『魔法使い』のスキルを持っていないグループに向かう。
ネルが一緒にいるのは心強いがこのグループにはおれの苦手なケビンとゲイルがいるのだ。
それだけがおれの悩みなんだよな。
「あれれー、なんでアベルくんがここにいるのかなぁ? アベルくんがいる場所はここじゃないと思うんだけどなぁ」
いじめっ子のゲイルが周りに聞こえる声で話し出す。
そして、おれの方を見てゲスな笑みを浮かべる。
「ほんとですよね!」
「アベルくんは一人机で補習するはずじゃないんですかね?」
それに対してゲイルの取り巻きたちが騒ぎ立てる。
ムカつくやつらだな!
あれは補習じゃないってんだよ!!
「アベル、気にしないほうがいいよ」
ネルの冷静なひと声でおれも落ち着く。
そうだな、あんなの気にしない気にしない。
「アベルくん、ちょっといいですか!」
おれがネルたちのグループに合流したのを見て、ドーベル先生はおれを呼び出す。
おれに向かって手まねきしているのだ。
「ほらほら、アベルくんは自分の場所に戻った方がいいよ。アベルくんにとって魔法の訓練より大事なものがあるんでしょ」
ゲイルはおれがドーベル先生に呼ばれたのを見てさらに煽ってくる。
本当に嫌なやつだな……。
周りの女子はおれを可哀想な目で見ているが、それに対して男子たちはクスクスと笑っている。
これがけっこうおれのメンタルにくるんだよな……。
おれはネルのもとを離れてドーベル先生のもとへ向かった。
そして尋ねる。
「なんですか?」
事前の話ではドーベル先生の授業だけは実技訓練に参加していいという話になっていた。
だからこそ他の実技では陰口に耐えながら補習まがいのレポートをやっていたんだ。
それなのにここに来てやっぱり参加はダメってことか?
おれは嫌な予感がしながらドーベル先生の言葉を待った。
「ごめんなさいね。事前に言い忘れていたんです。こんなことを生徒に言うものおかしいとは思いますが全力で魔法を使ったりしませんよね?」
ドーベル先生は申し訳なさそうにおれに問いかける。
全力で魔法を?
そんなことするわけがない。
例えば、おれが複合魔法の
「するつもりはありません! てか、絶対にしません!」
おれの言葉を聞きドーベル先生は安堵する。
「私は君がただのすごい召喚術師だと思っていました。しかし、ハリス様が言うには基本属性だけでなく氷属性魔法まで使えるそうじゃないですか。その歳ですごいですね」
どうやらドーベル先生はハリスさんからおれのことを聞いていたようだ。
だが、流石に闇属性魔法のことは話していないようだ。
まぁ、これは当たり前か。
「君も気づいているかもしれませんがこのクラスの生徒たちはこの学校においては優秀と呼べる者たちではありません。だからこそ、彼らの自信や才能を失わせない程度にやって欲しいのです」
なるほどな。
おれに手加減をして授業を受けろということなのか。
だが、それは教師としてそれでいいのか……?
「君は面接のときに言ってましたね。姉と一緒にこの学校に通うのが目的だと。だとしたらその目的は既に叶っているはずです」
確かにドーベル先生の言う通りだ。
おれの目的は既に達成されている。
あとは平凡な学校生活を送りながら卒業後の仕事を探すくらいだもんな。
「わかりました! 適度にがんばります!」
おれはドーベル先生に元気よく答える。
「ありがとうございます。では、あちらでお願いしますね。アベルくんは精霊たちに頼ることもないでしょう」
おれはネルたちのいるグループへと向かう。
ドーベル先生が言っていた精霊たちとはいうのは、この授業においては10人ほどの精霊たちが補助でいてくれるのだ。
精霊たちは必要に応じて生徒たちと
「あら、おかえりなさい。何を言われたの?」
ネルは戻ってきたおれに声をかける。
ドーベル先生にいじめられたのではないかと心配してくれたのだろうか?
「初めての実技だからがんばりなさいってさ」
おれは本当のことを話す必要はないので適当に
「そうなの。それじゃ、アベルの魔法を見せてもらおうかな」
ネルがおれに笑いかけてくる。
なんだかすごい嬉しそうだ。
おれも
「おいおい、みんな! アベルくんが帰ってきたぞ? もしかして、おれたちに魔法を見せてくれるんじゃないか? みんな見ようぜ!」
ゲイルが周りの生徒たちに声をかける。
すると、男子たちがゲイルの近くに集まってくる。
「あいつって裏口外部入学だろ? 魔法なんて使えるのかよ」
「バカ、使えねーからこれから覚えてようとしてんだろ! はっはっはっ」
「おい、あいつ精霊と
周りの男子たちからおれをバカにする声が聞こえる。
おれの心がギシギシと痛む。
やっぱり、いじめられるというのは苦しいものだ。
「大丈夫よ、アベルはできるはずよ」
隣にいるネルがおれの手を握って優しく声をかけてくれる。
ありがとう、ネル。
今日の的は動かない魔物の人形だ。
これは新しく魔法を覚えるという最初の段階だからかもしれない。
火属性魔法はやめておこう。
おれの得意な属性だし手加減すると言ってもあの人形を燃やしてしまうかもしれない。
そうだ、土属性魔法にしよう!
もちろん、
これならおれが使えても問題にはならないはず!
ドーベル先生には手加減しろって言われているもんな。
よし、
おれはしっかりと魔物の人形に狙いを定めて
おれの右手から土の塊が高速で対象である人形へと向かう。
ドォォォォーーーーン!!
そして、ものすごい音とともに魔物の人形は砕けちった。
おれの放った
えっ?
手加減したはずなのにどうしてこんなに威力が出たんだ?
いや、そうか!
あの人形自体がもろかったんだ!
絶対にそうだ!!
アリーナに鳴り響いた音を聞いて『魔法使い』のスキルを持っているグループの者たちもおれの方を向く。
もちろんドーベル先生もだ。
ドーベル先生はやれやれと言った表情で笑っている。
いや、先生!
これはわざとじゃないんですよ!?
「嘘だ……そんなはずがない」
おれの周りにいた、さっきまでおれをバカにしていた男子たちが
まぁ、落ちこぼれだと思っていたおれがあの威力の魔法を使ったらそうなるよね。
「あいつ……今無詠唱で魔法を使ってたぞ……」
おれは男子の言葉を聞いて気づく。
あっ……そっか……。
やってしまった……。
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