94話 それぞれの疑問(1)
おれとサラは無事にカルア高等魔術学校の入試に合格することができた。
そのことを父さんや母さんに報告すると二人はとても喜んでくれた。
おれが筆記試験がダメダメだったこと、実技試験はハリスさんのおかげでなんとかなったことを話すとみんな驚いていた。
やっぱり、ハリスさんを召喚することは常識的に考えてぶっ飛んでいるそうだ。
これを聞いたときの父さんと母さんの驚きようはすごかったな。
だけどハリスさん別に怒ってなかったし大丈夫だよね?
そして、サラを含め父さんも母さんもおれが筆記試験で0点を取りそうになったことに驚いていた。
おれはある程度勉強はできるとみんなは思っていたそうだ。
あやうくヴェルダン家の名に泥を塗るところだったぜ。
まあ、0点でないにしろそれに近い点数を取っている時点で泥を付けてしまった気がしないでもないんだけどな……。
また、サラの方は筆記も実技も完璧だったそうだ。
やっぱサラはすごいよ、うん。
そんな感じでその日の夜は家族四人で簡単な祝賀会みたいなことをした。
そして、翌日サラはエウレス共和国へと帰っていったのだ。
彼女は現在通っている中等魔術学校を卒業しないとだからね。
そこでおれは入学までやることもないのでアイシスと二人でカルアの大森林へと向かうことにした。
◇◇◇
おれはアイシスの転移魔法でカルアの大森林へと移動する。
本当は王国から全国民へ『カルアの大森林への立ち入りは禁ずる』という通知があったけど、おれはそれを無視をする。
だって、ハリスさんはおれなら来てもいいって言ってたからね。
王国としては事件の究明のために調査をすると声明を出しているが実際にそんなことは行われていない。
復興活動も精霊たちだけで行なっている。
これはハリスさんが現国王をあまりよく思っていないらしく、多少時間がかかったとしても王国の手は借りずに大森林のことをやりたいらしい。
そんなこともあって、おれとアイシスは微力ながら復興のお手伝いをしていたのだ。
高等魔術学校受験の翌日、おれたちは大森林の荒れた大地を整地して土を耕し、木々を植える作業をしていた。
そして、おれが昨日の受験で疲れているということもあり、一度休憩することにする。
おれとアイシス、そしてハリスさんは三人でいい感じの岩陰を見つけそこで休むことにした。
「アベル様、アイシスさん今日はありがとうございます」
ハリスさんは復興の作業を手伝っていたおれたちに感謝する。
魔法をガンガン使って荒れた大地を整地をしたり、植物の成長を促進させたりしてたアイシスはともかく、おれはあまり役に立っていないような気がする。
これは社交辞令というやつなのだろう。
「こちらこそ昨日はありがとうございました。ハリスさんのおかげで合格できましたよ」
おれは昨日、ハリスさんの助けがなければ不合格だっただろう。
本当にハリスさんには頭が上がらないよ。
「ドーベルから聞きましたが、アベル様は筆記試験の七英雄様の問題においてテオのことを唯一記述しなかったみたいですね」
ハリスさんがおれの傷をえぐるようなこと言ってきた。
あぁぁぁ、もう忘れたいよ!
だって、そのテオって人が王国の昔の王様で、学校を作った人で、おれの先祖様だったなんて知らなかったんだよ!
もう面接がトラウマになりそうだ。
「本当にごめんなさい」
おれはハリスさんに謝る。
ハリスさんは七英雄が活躍した神話の時代から生きているんだ。
彼女はニーアやテオといった七英雄とも知り合いだったみたいだし、おれがテオっていう七英雄を唯一知らなかったことに怒っているのだろう。
「謝らなくていいですよ。ただ、ここ数年はテオ様をやけに信仰している風潮があるのです。それはカルア王国の王家がテオ様の血筋を引いていることに関係しています」
ハリスさんはおれに対して特に怒ってはいないようだ。
それより、ハリスさんの発言が気になる。
「どうしてここ数年で急にそんな風になったんですか?」
テオが偉人であることには違いないのだから昔から信仰されてきてもおかしくない。
しかし、ここ数年でそれが顕著に現れはじめたというのはどうしてなのだろう?
「実は現国王は王国の歴史上でも5本の指に入る無能です。本来はある程度の力はあるくせに全くそれを使おうとしません。私はあれほど国王としてやる気のない者を見たことがありません」
ハリスさんが現国王をボロッカスに罵倒する。
おれは国王陛下に会ったことがないからよくわからないな。
でも、父さんやハリスさんの態度からあまり好かれていないのは伝わってくる。
「えっと……じゃあ、どうしてその人が国王になったんですか? もっと他にいい人はいなかったんですか?」
おれはハリスさんに尋ねてみる。
「他に王位継承権を持つ者がいなかったのです。先代国王の子どもの中で男子は現国王のみ。王国は世襲制であり、女性の国王は今までいないことから国民たちは女性国王に反対しました」
「現国王のことを知る者はもちろん女性国王を立てようとしましたが、国民に現国王が無能であることを言えるはずもなく結局は……」
ハリスさんが悔しそうにそう語る。
おれからしたら別に女性が国王だろうが別にいい気もするがこの世界ではそうはいかないのか。
それと、確かに内部の者が王位継承1位の王子が無能であるなんて公言しようものなら命はないのだろう。
この王国は見たところ絶対王政だし、もしかしたら反逆したら死刑なんてこともありそうだよな。
まぁ、これはおれの勝手な想像だけどな。
「それでまだ良心のある貴族たちは絶対王政はやめて、エウレス共和国のような共和制も良いのではないという意見も遠回しに出しているのです」
おぉ、なんだかすごいな!
権力に媚びずに現行の制度を変えようとしている貴族もいるのか。
おれは勇気ある者たちに感心する。
「しかし、それを知った国王派の貴族たちが、七英雄テオの血を引く王家が責任を持ってカルア王国を繁栄させると豪語しはじめて、ここ数年は今まで以上にテオを持ち上げているのです」
なるほどな。
七英雄テオを持ち上げることによって、自分たちはそのテオの血を引く一族なのだから自分たちもまたすごいと言いたいのか。
「基本的にテオを持ち上げる者たちは彼を本心から敬っているわけではありません。現国王に媚びるためにテオを信仰しているふりをしているのです。私はそれが許せないのです……」
そうか……ハリスさんにとってテオは古い友人みたいな者なのだろう。
だからこそ、今のこの心なき信仰の風潮が許せないか。
「昨日の面接官たちにもそれは当てはまりますか?」
おれは昨日の実技試験のことを思い出す。
おれを心底嫌って謎理論を展開して不合格にしようとしてきたカエルおじとニワトリおじ。
彼らもテオ信者のようだがもしかして……。
「はい。貴族に限らず魔術学校の教師たちにもそれは言えます。カルア魔術学校は中等部も高等部も貴族たちとの癒着があります。しかし、学校の組織として全てが腐敗しているわけではありませんので安心してください」
どうやら本当に関係があるようだ。
だからテオについて無礼なことをしたおれをあそこまで責め立てたのか。
それにしても貴族と教師の癒着か……。
おれとしては大臣である父さんに迷惑はかけたくない。
できるだけトラブルを避けて学校生活は送らないとだな。
その後もおれはハリスさんとこれから学校生活を送る上で気をつけることなんかを話してもらった。
この世界での常識があまりないおれからしたらとてもありがたい。
そして、ハリスさんはおれがひと通り満足したのを確認すると今まで黙っていたアイシスに話を振った。
「アイシスさん、お尋ねしたいことがあるのです」
急にアイシスに?
いったいどうしたのだろう。
「はい、何でしょうか」
アイシスは落ち着いた声で答える。
「よかったら教えてくれませんか。私のことを、そして『次期精霊王候補』という存在について」
ハリスさんは真剣な眼差しでアイシスを見ていた。
そして、彼女もそれに応える。
「はい。では、どこからお話しましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます