67話 天使と悪魔と精霊と(1)
おれとアイシスは宿屋の一室で相対して座っていた。
お金もたっぷり手に入ったということで、広めで防音対策も取れていそうな部屋を取った。
そして、おれはアイシスに先ほどの出来事について尋ねる。
「アイシス……。それで、さっきはどこが危険な状況だったんだ?」
ここに来る前、とある森でおれたちは天使に遭遇した。
その天使は以前おれの夢に出てきた不思議な出会いをした女神様だった。
そして、アイシスはその女神様である天使カタリーナに終始警戒を緩めていなかった。
なぜアイシスがそこまで彼女を警戒しているのかおれには理解できなかったのだ。
「はい……。私はあの天使の存在を魔力感知で把握することができませんでした。もしも、彼女が敵対している存在だった場合、私が付いていながらアベル様を失うことに……」
もしかして、アイシスは女神様を魔力感知で特定することができなかったのを悔やんでいるのか?
確かにアイシスは何かの存在の魔力を感じてはいると言っていた。
しかし、女神様の話でもあったがアイシスは魔力を抑えていた女神様の位置や存在を把握できておらず、自ら彼女の陣地へと踏み込む形になってしまった。
今回は女神様が敵ではなかったからよかったが、もしも敵対している上位悪魔などを相手に同じことをしていたら大変なことになっていただろう。
だからこそ彼女は落ち込んでいるのかもしれない。
「アイシス、これは結果論だがおれたちはこうして無事だったんだ。だから気にしなくていいよ。それに、誰にだってミスや失敗はあるんだ。アイシスは十分やってくれているよ」
おれはアイシスを責めていないことを伝える。
そもそも優秀過ぎる彼女だからこそ、今回の件で落ち込んでしまっているのかもしれない。
おれの見ている範囲でこの2年間、アイシスは
まさにできる女という感じだったと思う。
「はい……。アベル様にそう言ってもらえるのはありがたいのですが、私自身の中で気持ちの整理がなかなかつかないのです……」
やはりアイシスは今回の件を重く受け止め過ぎているのかもしれないな……。
おれとしては早く彼女に元気になってもらいたい。
何か話を変えるか。
「そういえばアイシスは天使カタリーナとは知り合いだったの?」
おれは疑問に思っていたことを聞いてみる。
『天使』と付けたのは、人間界でカタリーナと言えば七英雄のエルフを指すからだ。
だからこそ、おれは天使カタリーナのことを今でも女神様と呼んでいる。
「いいえ、彼女には初めてお会いしました。ある程度の魔力感知能力があれば、私たち精霊体はお互いの種族が天使であったり、悪魔であったりということがわかります。それであのような会話になったのです」
どうやらアイシスは女神様とは初めて会ったらしい。
精霊体同士なら互いの種族がわかるのか。
そういえば、以前大量の精霊たちを召喚したときも彼らはアイシスが悪魔だってわかったんだっけ。
今のおれの魔力感知能力では魔力を持った者がいるということくらいまでしかわからないからな。
アイシスたちの感覚はよくわからない。
「そうだったのか。だったら、なおさら敵かもしれない存在じゃないかって不安になるよな……」
「はい……私は上位悪魔ということもあり、それなりには強いと自覚があります。しかし、あの者はその私の本気の魔力感知にほとんど引っかからないように魔力を抑えていました……。強さが不確定ということもあり危機感を覚えました」
アイシスは、ゆっくりとそう語る。
確かに、アイシスの魔力感知能力は本当に高いと思う。
この2年間、様々な場面で色々とお世話になっているからな。
そんなアイシスが本気を出しても全く魔力を感知できないなんて女神様はどれほどの存在なんだ?
「もしかして、あの天使はそんなに強い存在なのか?」
「いいえ、名前を聞いた限り有名な天使ではありませんし、それほど強くはないでしょう。ただ、魔力制御に優れており、存在を隠すことに長けているのは間違いありません」
どうやら女神様はアイシスが強いと認識しているわけではないらしい。
もしかしら、天使の中でも有名とか無名とかがあるのかもしれないな。
そういえば、かつてカシアスがライカンのエルダルフと戦っていたとき、エルダルフがカシアスに『おれは上位悪魔でお前みたいなやつ知らねえぞ!』なんてこと言っていたな。
精霊体の中でも上位悪魔だったり、強い天使だったりは魔界では有名なのかもしれない。
「それって、精霊体の中でも強いやつは魔界では名が通ってるってことなのか?」
おれはアイシスに質問をする。
「はい。しかし、それは精霊体だけというわけではありません。基本的に魔王とその有力な配下たちに関しては、魔界で名が知れ渡っています」
確か魔界にいる62人の魔王の内、58人が魔族で4人が精霊体だったな。
「それじゃあ、カタリーナっていう名前は魔王の有力な配下にいないから強くはないってことなのか?」
「はい。天使たちは、天使の魔王のみに従っています。そして、天使の魔王は魔界に1人おりますが、彼の配下で私が勝てないのはおそらく4人だけです。その中にカタリーナという名前はないので、あの者が名前を語った時点で安心はしました」
おうおうおう。
天使がどれくらいの数いるのか知らないが、4人以外に負ける気はしないとはアイシス強すぎませんか。
珍しく強気なアイシスを見たな。
「そっ、そうなのか……。まさか、負けないからって今度会ったら戦ったりしないよね? 今日見た感じだと天使と悪魔って仲悪そうだったんだけどさ……」
どうやら天使は何か特別な使命があるらしく魔界以外に派遣されているようだった。
これからも女神様と会う機会があるかもしれないんだ。
トラブルは避けたい。
今日おれが見た感じだと天使である女神様と悪魔であるアイシスは仲良さそうには見えなかった。
女神様は穏やかだったけど、アイシスはピリピリしてたからな。
そういえば、おれが精霊たちを召喚したときも、悪魔であるアイシスは精霊たちに恐れられていたな。
もしかして、精霊体たちって仲良くないのか?
「基本的に精霊体は他種族間では関わろうとすらしません。私とリノ様のように、同じ魔王の配下としている場合は例外だと思います。それから、意味もなく戦うことはないので安心してください」
どうやら本当に精霊体たちは仲良くないらしい。
まぁ、よくよく考えれば同じ人族である人間とエルフも仲良くなさそうだしな。
獣人にはまだ会ったことがないから知らないが、どうせエルフ同様、人間を
「じゃあ、魔王たちには
62人しかいない魔王の中でも4人しか精霊体の魔王はいないのだ。
派閥を組むとしたら近い種族同士で組みそうだが、そこはどうしているのだろうか。
「そうでしたね。アベル様に魔王たちの派閥について話しましたが、お話していないことがまだありました。これは魔王たちの派閥にも関係する話なので少しお話します」
何やらアイシスがおれに語るようだ。
いったいどんな話なんだろうか?
「実は魔界の魔王たちにおいて、彼らの強さを測るものさしとして『魔王序列』というものがあります。これは魔王たちの魔力量をもとに、62人の魔王たちの強さに順位を付けたものです」
魔王序列?
魔王たちの強さに順位なんて付いているのかよ。
おそらく、これで魔王たちの勢力図なんかも決まっているんだろうな。
「そして、魔王序列の第1位から第4位までは全て精霊体の魔王なのです」
おれはアイシスのその言葉の意味を理解するまでに時間がかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます