60話 地龍登場

  ギュュッッアアアア!!!!


  魔物の雄叫おたけびが辺りに響き渡る。


  「まさか……地龍なのか!?」


  レンドラーが怯えだす。


  地龍?

  そういえば、エバンナがそんなことを言っていた気もするな。

  もしかして、ニルヴァーナは地龍を討伐するためにこの岩山に来たのかもしれないな。


  辺り一帯に魔物の雄叫びが響いた直後、おれたちの後方の大地が裂け、一匹の龍が顔を出す。


  そして、その龍は雄叫びをあげながらおれたちの上空を舞ったのだ。


  「おっ、おい! お前も今はおれたちとこんなことをしている場合じゃないはずだ! ここは協力して地龍を倒そうじゃないか!!」


  「そうよ! 地龍討伐の報酬は貴方一人に半分あげるわ!! どう、悪い話じゃないでしょ!?」


  さっきまで塞ぎ込んでいたリアンとサンリナが突然おれに交渉し始める。

  どうやら、ニルヴァーナがここへ来たのは地龍の目撃があったこと、そしてその討伐依頼があったということで間違いなさそうだな。


  アイシスが言っていたが、龍というのは人間界にいる魔物の中では最強の魔物らしい。

  各大陸に1チームしか存在しないSランク冒険者パーティーに討伐依頼があるのは不思議でないか。


  そして今、ニルヴァーナは追い込まれている状況にある。

  目の前にはおれと精霊20人に囲まれていて、上空には人間界最強の魔物である龍の一種である地龍がいる。


  ここに来たということは、地龍の討伐依頼があってそれを承諾したということ。

  つまり、本来ならばおれの力など借りなくともニルヴァーナだけでも地龍を狩ることはできるのだろう。


  だがこいつらは今、地龍の討伐をおれに手伝って欲しいと頼んできている。

  つまり、これはおれに恩を売ろうとしているのだろう。


  金か……。

  確かに魅力的ではある。

  だが、おれには金よりも大切なものがある。


  「残念ながらその提案には乗ることができない」


  おれはキッパリとニルヴァーナの連中にノーと宣言する。


  「どうしてだ!? お前一人で龍に挑むのっていうか? さっきまで殺し合っていたおれたちに背中を向けて戦うのはお前だって気が向かないはずだ!!」


  リアンが諦めずにおれを説得しようと試みる。

  どうやらこいつらは根本的な間違いに気付いていないようだ。


  「おれには金よりも大事なものがある。それは家族とだ」


  おれは右手を空に伸ばして指を鳴らす。


  パチンッ!


  渇いた音が鳴った。


  ニルヴァーナの四人はおれの行動が理解できていない。

  そう、今はまだ……。


  突如として、上空に舞う地龍がおれたちの元へと急降下してくる。

  体長10メートルは超える巨大な龍。

  その巨体がもの凄い速度で音をたてながら迫ってくる。


  ニルヴァーナの四人は恐怖で怯えて動けないでいる。


  そして、地龍はゆっくりとおれの右側に降り立った。

  おれは頭をこちらに向けてくる地龍の首を優しくなでる。


  「悪いな、この地龍はおれの仲間なんだ。それで、まだおれに何か言いたいことはあるか?」


  おれはニルヴァーナの四人に目を向ける。

  その横で地龍は鋭い目つきでニルヴァーナの四人を睨み、翼を広げて威嚇する。


  「ひぃぃぇぇええ!!!!」


  ニルヴァーナの四人は、一目散におれたち前から逃げ出した。


  まぁ、おれとしては彼らをどうこうしてやろうなんていうつもりは全くない。

  セルフィーに依頼されておれを殺そうとしたのならまだしも、討伐依頼でたまたまおれの目の前にやってきたんだしな。


  そういえば、エバンナだけはおれの情報を詳しく知っていた。

  もしかしたら、エバンナがセルフィーと繋がっていておれの情報が流れていたという可能性はないか?


  他の三人はただの地龍討伐ということしか知らされていなかったのかもしれないが、エバンナだけはおれを見た瞬間から何かに感づいたようだった……。

  まぁ、考えすぎかもしれないな。


  だけど……あの四人を何も問い詰めずに解放してしまったことは、アイシスに怒られるだろうな。

  ハハハッ、ハハハッ。


  さてと……。


  「そこのあなたはいつまで隠れているつもりなんですか?」


  おれは誰もいない荒れた大地の空間に話しかける。

  周りから見たらおれのこの行動は変に映っただろう。

  しかし……。


  「おや? どうして僕がここにいるってわかったんだい? 結構上手く隠れていたつもりだったんだけどね」


  突然何もなかったはずの空間から人が現れる。

  その姿は緑のボサボサの髪に無精髭の男。

  とてもじゃないが怪しくないとは言えない姿だった。


  「もしかして、僕の魔力を感知できたの?」


  男はフランクにおれに話しかける。

  それに、一見わからないが男は精霊体と融合シンクロしているようだ。


  「えぇ、そこにいるのは初めからわかっていました」


  これは嘘だ。

  今のおれの魔力感知能力ではこの男が隠れていたことは全くわからなかった。


  ニルヴァーナとの戦闘において余裕があったおれは、今男がいる辺りで発動した魔法がほんの少しだけ不可解な挙動を見せたのを見逃さなかった。

  もしかしたらと思って声をかけてみたのだ。


  この怪しい男の力は未知数だ。

  正直おれは戦いたくはない。

  いったいこの男は何者なんだ?


  「なるほどね……。漆黒の召喚術師アベルか……。君は僕の想像以上の実力を持っているみたいだ。どうだろう、君の話を聞かせてくれないかい?」


  「内容によりますね。それと答えたらおれの質問にも答えてくれますか?」


  おれと謎の男の視線が交じり合う。

  この男がどれほどの実力かはわからないが、こっちには精霊20人に地龍ヴィエラもいる。

  おそらくそう簡単に負けることはないはずだ。


  「いいだろう。それじゃあ質問だ」


  男はおれから視線を外し、笑って話す。


  「君は天使や悪魔を召喚したことがあるかい? それと、『補助サポートスキル』という言葉に聞き覚えはあるかい?」


  だが、そう質問する男の目は決して笑っていなかった。


  天使や悪魔を召喚したことがあるかだって?

  それに補助スキルのことをこいつは知っている。

  いったい、こいつは何者なんだ……。

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