35話 ようこそゼノシア大陸へ
朝日が昇るのを見ながら、おれとアイシスは歩いて街へと向かっていた。
転移魔法で街に侵入することもできたが、この街は今後スクールライフを送るための資金調達として活動する街になるかもしれないのだ。
違法入場という犯罪行為を避け、リスクを極限まで下げて街に入るために通行門の前に来ていた。
まだ朝という時間帯だということもあるのかもしれないが、通行門の前に並んでる人たちは少なかった。
ちなみにアイシスには魔力を抑えさせて人間の格好をさせている。
翼も隠したし、認識阻害の魔法も使っているということでよっぽど魔法を極めている者や魔力感知に長けている者以外にはバレないらしい。
かくいうおれも今のアイシスは人間にしか見えない。
ちょっとだけくやしい気持ちだ。
そして、おれとアイシスは街に入るための列に並ぶ。
こういう世界では
周囲を観察してそんな風に思っていたときだった。
「ねぇ、きみたち。ちょっといいかな」
おれとアイシスは後ろから声が聞こえたので振り返る。
どうやら、おれたちのすぐ後ろにいる男性が話しかけてきたようだ。
見た目は優しそうな眼鏡をかけたおじさんだ。
少しほっそりとしていてるが不健康そうには見えない。
身につけている装飾品の貴金属からも裕福な暮らしをしていることがうかがえる。
どうやらおれが想像していた異世界あるあるは起こらないようだ。
「はい、なんでしょうか?」
おれは声をかけてきたおじさんに返事をする。
何か失礼な振る舞いをしてしまっているのだろうか。
おれもアイシスもこの人間界での常識に
だが、このおじさんの話を聞くとどうも違うようであった。
「君たちは姉弟なのかな? どうして朝からこんな所にいるんだい。お父さんやお母さんは一緒じゃないの?」
このおじさんはおれたちが何者かということについて質問をしてくる。
もしかしたら、おれたちのことを心配してくれているのかもしれない。
確かに言われてみればおかしいよな。
おれはまだ見た目10歳の子どもだし、アイシスも10代後半の女の子にしか見えない。
そんな二人が子どもたちだけで朝から街に入るために列に並んでいる。
うん、周りから見たら普通の光景ではないよな。
「えっと……。この人は姉ではないですよ。訳あって一緒に旅をしているんですよ。あっ、大人はいませんけど大丈夫です。おれは魔法使いですし、魔物にも襲われずにここまでたどり着きましたから」
きっと、おれたちのことを心配してくれているのだろう。
優しいおじさんだな。
とりあえず心配する必要はないことだけを伝える。
「ほう。それはすごい、ボウヤたちは魔法使いなのかい。それでどこらへんからやって来たんだい」
どこからだって?
正直こういう会話はしたくないな。
元々おれはコミュ障なのだ。
あの村では小さい頃からみんなが優しく接してくれてたからおれも家族を含めて村のみんなと仲良くできていたが他は違う。
見ず知らずの他人と関わるのはあんまり好きじゃない。
あれ……おれ学校に通うの向いてないじゃん!?
よし、サラには悪いけどサラが高等魔術学校へ通う資金だけを稼ぐことにしよう、うん。
「私たちは小さな村からやって来ました。訳あってお金が必要なのですが小さな村ではなかなかお金が貯まらなくて……。それでこの街にやって来たのです」
おれの代わりにアイシスが話してくれた。
よし、いいぞアイシス。
だが、彼女の答えを聞くなり急に男の顔つきが変わるのであった……。
「ほうほう、お金が必要なのね……。ちょっと、お姉ちゃん。若い女の子向きに仕事があるんだけどやってみないかい?」
さっきまで優しそうだったこの男の顔が
あぁ、なるほどな。
これはきっとダメなやつだ。
こういうやつってどこの世界にもいるんだな……。
アイシスはとびっきりの美人だ。
この世界で一番の美人はハンナ母さんだと思っているが、アイシスもそれに匹敵するほど顔が整っている。
それに幼さが残っていて若さがある分、アイシスの方が上だという人も多いだろう。
そんな女の子がお金が必要ですなんて言ったらもう……。
「それは一体どのような——」
「あー! 大丈夫ですよ。おれたちは自分で仕事を見つけるのでお構いなく!」
おれはアイシスの言葉を遮って断る。
アイシスは天然気質だし、きっとピュアだ。
こういう話は聞かせたくはない。
「君ならばきっと稼げるよ。いや、私が雇おう! 100万! 100万リナでどうだい 」
男はそれでも強引に口説こうとしてくる。
ってかリナって何だよ。
「次の方どうぞー」
街に入場するための検査員たちがおれらを呼ぶ。
「それではまたどこかで! さよなら」
おれはアイシスを連れて男の元を立ち去る。
「ちょっと待ってよ君たち……チッ、だがあの女は
このとき男がよからぬことを企んでいることにおれはまだ気づいていなかった。
◇◇◇
「きみたちはこの街の住人?」
おれとアイシスはあの気持ち悪い男から逃げ検査員たちから質問を受けていた。
「いえ、旅人です。芸もできるのでお金を稼げたらいいなと思ってやってきました。仕事がなければまた次の街を目指します」
コミュ障のおれは早口で喋ってしまう。
検査員さんたち、ちゃんと聞き取れたかな?
「なるほどね。じゃあ一人につき入場料10リナだから二人で20リナね」
検査員は特に問題なく通してくれそうだ。
しかし、リナって何だ?
お金の硬貨なのか数字の単位なのか……おれは旅立つときに5000ニアだけ残し、あとは全てサラに渡してしまった。
ちなみにニアというのはこの世界のお金の単位だ。
「はい。これでお願いします」
アイシスが硬貨を二枚検査員に渡し、無事に受理される。
えっ?
なんでアイシスは20リナ持ってるの!?
「それにしても君って綺麗だね。今夜食事に誘ってもいいかな?」
検査員の一人がアイシスを口説く。
そして、他の検査員たちも続く。
「お前! 抜けがけは許さねぇぞ。お嬢さん、おれと食事行きましょうよ!」
「いや、おれと!!」
アイシスは入れ食い状態で何人もの男に誘われている。
「すみません。興味がありません」
アイシスは一礼してお断りをする。
男たちは全員がっかりとしている。
「そういえば、おれたちの後ろにいたあのおじさんって知っていますか? みなさんみたいに彼女を口説いて来たんですけど」
おれは検査員たちにさきほどの男について尋ねてみる。
「あぁ、あの人はゲゼル=ウォン=アルストロ。ここらじゃ有名な奴隷商人だよ。この街には別荘があるからね、それでこの街に来たんじゃないかな。まぁ、ここだけの話あんまりいい噂は聞かないね」
どうやらあの男は有名な奴隷商らしい。
やっぱり危ないやつだったんだな。
誘いに乗らなくてよかったぜ……。
「なるほどね。ありがとうみなさん。それじゃあ!」
おれは検査員たちに別れを告げる。
「おう! 仕事が見つかるといいな」
こうして、おれたちは街へと入場できた。
そして、周りに人がいなくなったところでアイシスに確認する。
「なぁ、アイシスはなんで20リナなんて持っていたんだ?」
おれは疑問に思っていたことを尋ねている。
「はい、アベル様と旅をするにあたり人間界でのお金が必要だろうとカシアス様から各大陸で使われているお金はある程度頂いておりますので」
はい?
各大陸ってどういうこと?
「アイシス、ここはフォルステリアじゃないのか?」
「はい、リノ様のお話ですと人間界ではゼノシアと呼ばれる大陸のローナ地方という場所らしいです」
ゼノシアだって!?
全く違う土地じゃないか。
前世でいうところの違う県に出かけていたつもりが気づいたらアフリカ大陸にいたくらいのことだぞ。
そりゃ通貨が違うわけだ。
「なんでゼノシア大陸まで来たんだよ。フォルステリアでもいいじゃないか」
「はい、これにつきましては個人的な理由ゆえ、あまり合理性はありません。しかし、アベル様の訓練という意味では問題はないと思います」
まぁ、確かにゼノシアでも問題はないんだけどさ……。
別の大陸に来ていたなんて1ヶ月間全く気がつかなったな。
どうやらアイシスは必要ないと判断したことについては話さないらしい。
「なあ、他に言うことはないのか? サラへのメッセージの件にしても大陸の件にしてもおれにはしっかりと伝えて欲しいんだけど」
「申し訳ございませんでしたアベル様。これからはしっかりと
まぁ、別に大陸が違っても問題はないだろう。
あれ……通貨が違うってもちろんリナからニアに換金できるんだよな?
資金稼ぎ活動無駄になったりしないよね?
まぁ、それはまた今度考えればいいや……おれは疲れたよ。
こうしておれのゼノシア大陸での本格的な活動は始まったのだ。
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