24.前橋タク その6
ケイスケは想像以上だった。
第二次選抜までで1000点を越えたというからとんでもないやつだとは思っていたが、まさかこれほどとは。
課題へのアプローチがまるで違う。俺は奇抜なアイデアを使って喫茶店にインパクトを残そうと考えていた。印象に残る喫茶店のプレゼンができれば高得点が取れるだろうって感じでな。課題をベースに考え始めたわけだ。
ケイスケは違う。採点者の採点基準を元に考えている。
確かにケイスケの考えは、試験としては邪道なのかもしれねえ。だが、「高得点を取る」ということに関して言えば理にかなっていた。そういや自己紹介のとき「どのランクを目指しているのか」を尋ねてきたのはケイスケだったな。あの時点から考えていたということだ。
物事を考える順序もわかりやすい。普通はメニューを考えてから値段を決めるところじゃねえかって感じなのに、値段を基準にメニューを作っていく。
メニュー作りを担当した女子三人は「これだともっと値段上げないとダメか」みたいに値段という物差しを基準にして考えていた。普通は「こんな料理だしたーーい!」とか勢いで喋っているはずなのにな。
俺とヒロトは家賃や内装を考える担当だったが、内装にお金をかけすぎることもなくどんどん進んだ。俺としては内装にいくつか理想もあったが、基準があったおかげで思いとどまることができた。
自分の好きなことってのは細部までこだわりがちじゃん? 俺もそうだ。古民家カフェの内装とか言われたらやりたいことは沢山出てくるわけよ。
でもそれは自己満足だろ。お客さんに喜んでもらうこと、そして利益を上げること。この二つを追求しなきゃならねえ。ケイスケはその辺の感覚にブレがなかった。
そうして男女それぞれが話し合った内容をケイスケはパソコンでまとめていく。まるで社会人のスライド資料のようなものが次々と出来上がる。
「中学生っぽさも出していかないとね」
そう言いながら人気アニメキャラの画像を貼ったり、吹き出しを付けたりしていった。
メニューに和風な料理が並ぶ中、ビーフシチューを中間に挟み込む。この並びだと逆にビーフシチューが食いたくなるけどな。でも違和感はバッチリだ。
「学んだことや経験を活かしてって、どうやって入れればいいのー?」
アヤナが質問してくる。最もな問いかけだ。発表するときの参考になりそうだな。
「経験の方はそのままだね。例えば、去年僕の家の近所にラーメン屋さんができたんだけど、工事が始まってから大体二ヶ月くらいでオープンしたんだ。ということから内装や準備は二ヶ月以内に終わらせたい。できれば一ヶ月がいいけど」
パソコンから目を上げてアヤナの方を見る。
「で、何で一ヶ月がいいかというと、当たり前だけど家賃が毎月かかるわけだよね。家賃は十二万くらいの予定だ。で、今回決めた値段で飲み物と食事を頼むとひとり1200円くらい。原価を抜きにしても、毎月100人分の売上は家賃に流れてしまう。工事をしている期間は当然お客さんはゼロ。だから一ヶ月の工事だったら100人、二ヶ月の工事なら200人余分に売上を上げなきゃならない」
アヤナだけじゃあなくサキもスズカもヒロトも、もちろん俺もケイスケの話に聞き入っていた。ケイスケは続ける。
「で本題の学んだことなんだけど。この計算って関数だよね。家賃が毎月、とか。そしてお客さんが何ん人以上くればいいかって話は不等式や方程式。古民家カフェなら外国人観光客も呼びたいって考えたらそれは英語。多少こじつけだけど、習ったところを活かすのはこんなイメージかな」
操作していたパソコンをみんなに向かって見せる。
「まだ作成途中だけど、スライドではこんな風に右側に習ったことを使っている式や英文を載せているんだ」
そこには見慣れた一次関数の式「y=ax+b」という式から、収支計算をしている流れが書かれていた。次のページには受動態を使って英訳された文章も併記されている。
「もうちょっと見やすくしないとね」
そう呟きながら、ケイスケはパソコンの作業に戻っていった。
初日が終わり、ベッドに潜り込みながら一日を振り返る。最初に浮かぶのはケイスケのことだった。
思い出すだけで凄すぎて笑っちまう。あれで13歳かよ。
相手チームだけじゃあねえ、国中探してもこいつに勝てる中3はいねえとまで思った。
凄いヤツとチームを組めた。入試だっていうのに最高の思い出ができた。
他にも面白いヤツらばっかりだ。まあヒロトは普通か。
高校生になったらまたこのメンバーで集まりてえな。
あ、明日の発表は俺とスズカか、頑張らねえとな。
マジで受験頑張ってよかったぜ、明日が楽しみだ。
だが、発表の機会は来なかった。
翌朝。ケイスケは。
死んでいた。
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