22.川口アンジュ その3

「まず決めるのは喫茶店の場所、メニュー、値段。この三つのどれかね。どれがいいかな?」


 今回の課題はかなり難しい気がする。今までよりも考えることが多すぎるからだ。でも私は大きくこの三つだと判断してみんなに問いかける。


 昼食の間にそこそこみんなとコミュニケーションが取れたと思う。比較的活発に意見を出してくれる。


「まずはメニューを考えたいな、面白そうだし。メニュー考えないと値段も決められないし」


 女子二人はメニューか。男子もひとりが頷いている。


「俺は場所かな、家賃が高かったら困るでしょ。あと都会と田舎だとメニューも違うものになりそう。メニュー作り直しになっちゃうかも」


 体格のいい男子のカナトが言う。もう一人の男子も同意する。


「そうだね、じゃあ場所かメニューか、どっちからか決めていこう。他にメニューと場所、先に決めたらいいことないかな?」


 私が会話を促す。




 まずは第一関門クリア。最初の関門は私が司会者ポジションになることだった。まとめ役の方が話の流れをコントロールしやすい。チームワークも大事だから全部私が決めるなんてことは悪手だ。みんなの納得度を高めながらできるだけ良いものに仕上げなければ。


 お互いがいいところをあげていく。最初に場所を決めるのが優勢のようだ。


「じゃあまずは場所を先に決めよう。だけど、メニューはどんなものをイメージしてたかは聞いておきたいな」


「うーん、やっぱり「映え」があるやつかな、できたらおしゃれな感じ」


「なるほど。それをイメージすると場所は、都会か田舎だと……」


 女子たちが答えたの受け、私が場所の話へ誘導する。


「都会のがいいね。家賃は高くなるかもしれないけど、高級路線とかアリかも」


「それいい!」


 カナトが言い、女子が賛同する。意外と優秀だ。そして女子に同意していたメガネの男子、ヨシノリはパソコンにメモをし始めた。


 いい傾向だ。それぞれが自分の役割にシフトし始めている。


「ヨシノリ、ありがとう! ひょっとして表とかパソコンでまとめられたりする?」


「たぶん、できる。プレゼンテーションソフト使えば。やったこと、あるし」


 これは嬉しい誤算だ。私はパソコンに詳しくない。他のメンバーも同様だろう。ひとりでもいてくれると助かる。




 順調に次々と決まっていく。私が投げかけ、女子が思ったことを言う。男子は現実路線の意見を言い、カナトが修正して折衷案を出す。それをヨシノリがパソコンでまとめる。


 みんながそれぞれの役割を持つようにすること。これで第二関門も突破。


 さらに最終関門である専門のスキル、パソコンを使うというのも突破した。パソコンでプレゼンするのが必須というのを大岩から聞いたときは少し焦ったが、ヨシノリのおかげでそれもクリア。




 私たちのチームはなかなかいいわよ。


 ケイスケ、あなたはどう?


 勉強では一歩及ばなかったけど、チーム戦は別物でしょ?


 必ずここであなたに勝ってやる!




 実際、同じコテージではなくても点数勝負はできる。政府が上位者の得点を公表してくれるからだ。


 でもどうしてもこだわりたかった。実際に習志野ケイスケを見て私のすべてを賭けて勝負したかった。そしてケイスケに会えば、私自身の力をもっと引き出せると確信していた。




 模試でどうしても勝てなかったとき。


 ケイスケの正体を突き止めたとき。


 ケイスケが私と同じ二学年飛び級と知ったとき。


 私が越えるべき目標であるケイスケと直接勝負したいという気持ちが抑えられなかった。




 パパには感謝したい。ちゃんとケイスケと戦えるようにしてくれたから。


 と言っても半分は正規の方法だ。


 本来、居住地によって受験会場は絞られ、いくつかの候補の中からランダムに選ばれる。だが、高国は全国一律の問題なので、保護者の同意書があれば、受験会場を変更することができるのだ。習志野ケイスケの中学校は突き止めることができたため、同じ地域で受けられるよう同意書を出してもらった。




 もう半分はパパの力を使ってもらった。


 もちろん、点数をいじったり、問題を事前に入手したりなどはしていない。そこだけは自分の実力で勝負したかったし、勝ちたいと思っていた。それに点数をいじるのはセキュリティなどを考えても不可能だった。




 パパの会社はいくつかある高国のシステム運営会社のひとつだ。第一次選抜から第三次選抜までの会場振り分けシステムを扱っている。この偶然は運命だとさえ思えた。


 それを利用させてもらった。


 地域が違ったらさすがに不正になる。受験会場変更の同意書を出し、地域を同じにした上で習志野ケイスケの相手チームになるようにしてもらったのだ。まあそれでも不正には間違いないけど、バレないだろうし、バレても私に何のメリットもないため特に大事には至らないだろうというのがパパの見解だった。


 私はケイスケと戦えるならバレても問題になっても構わなかった。


 そんなことを言うとパパも許してくれないと思って言わなかったが。




 本当なら私はここで叫びたい。


 今、私は最高に充実している!


 と。

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