21.神保ヒロト その3

 川口アンジュについては何も考えないことにした。よく考えたらAIによる採点のため、キッチンや広間だけでなく、廊下や屋外にもカメラが取り付けられている。滅多なことはできないはずだ。


 見る限り、アンジュもBチームの他のメンバーと楽しそうに会話しているので、気にするほどではなさそうだ。


 もちろんAチームもみんな仲良くなった気がする。僕だけあまり喋っていないけど、仲良くなれたと信じたい。




 昼食後、広間に全員が集まった。十人掛けの木製テーブルが二つあり、AチームとBチームがそれぞれ座っている。テーブルの上には一台のノートパソコンがあるだけ。中央の壁際には大型のテレビが置かれ、その横に大岩先生と二人の女子大生がいる。




 いよいよ課題の発表だ。大岩先生が一歩前に出る。


「さて、今から第三次選抜の課題を発表します。と言っても私が課題を知っているわけではありません。今からこちらのテレビで放映されますので、注目してください」


 そう言うと、美江寺さんがテレビの電源をつける。画面には「第三次選抜 課題」と表示されているだけ。


 少し見ていると画面が切り替わった。見覚えのある男が映し出される。


「受験生のみなさん、こんにちは。高校入学及び国家認定クラス選抜試験、統括責任者の林シンパチです」


 以前、この国の首相だった林シンパチだ。現在は高国の責任者を務めている。五十代で首相となり、約八年間務め上げた、歴代でもトップクラスの政治家との呼び声が高い人物だ。


 彼が首相になった年に初のネクスト覚醒者が見つかり、それをきっかけに高校入試を改革したのは有名な話である。


「第三次選抜まで辿り着いたみなさんは、これまで多くの努力と研鑽を積み重ねてきたと思います。その実力を遺憾なく発揮し、今後の人生に役立てていただきたい。それがこの国の発展にも繋がります」


 七十歳くらいのはずなのに、眼の光、毛量、声の張りなどは四十代を思わせる。年齢の割に若々しく、エネルギッシュだ。


「さて、あまり長く話すのも時間が勿体ないので、課題の発表をします。『自分たちが喫茶店を作るときどうするか』これが本年度第三次選抜の課題です」


 難しい。去年は「百年後の自動車はどうなっているか」だったが、こちらの方がまだ想像しやすい。


「これだけだとさすがに厳しいので、前提をふたつ付け加えます。一つ目、喫茶店を作る資金は借りることができるものとします。返さなくてはいけませんが、開業資金に困ることはないと思ってください」


「二つ目、みなさんに貸与されているパソコンには一定地域の土地の家賃相場や、チェーン店のメニューと値段など、いくつかのデータを入れてありますので、そちらを参考にしても構いません」


「では、これまで学んできたことや経験を活かしてがんばってください」


 林シンパチが一礼をすると再び画面が切り替わり、今度は課題のテロップが表示される。




『自分たちが喫茶店を作るときどうするか』




 僕には手の付けようがない問題だ。他のみんなも声を発さない。考えているのだろうか。


 沈黙を大岩先生が破った。


「はい、これから課題に挑んでいただきます。基本的に課題の内容に関することすべて、我々は答えられません。現在もカメラが回っていますから、その辺りは理解してください。ひとつ言えるのは、内容をパソコンと発表者でしっかりまとめることです。では始めてください」




 第三次選抜、ここからが本番だ。正直結果はどうでもよかったけど、チームのためにはがんばりたいという意識は芽生えた。


 知り合ってまだ数時間なのに、僕もちょろいやつだと思う。


 ただ、どのように始めていいかわからない。やはり僕は誰かが話し始めるのを待つだけだった。

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