18.芝原スズカ その7
それから私はさらさら髪の男の子とひたすら会話をした。
一方的に私が質問して、彼が答える形がほとんどだったけど。
名前は習志野ケイスケ。二度ほど飛び級をしたから、年齢はまだ13歳らしい。途中通路を挟んで反対側にいた女の子が物凄い形相で睨んできたから声のトーンを落とす。
最も驚いたのは高国の点数だ。合計でまさかの1000点越え!
「凄いねケイスケ。なんでそんなにできるの?」
さりげなく呼び捨て。
「んーー、勉強が好きだからかなあ」
「うおーー、勉強が好きだとか私も言ってみたい! じゃあ将来は何かの研究者になりたいとか?」
「将来は決まってないなあ。今は自分がどこまでできるか試してみたいだけ。それに将来が決まっている人ってそこまで多くない気がする。スズカさんは決まってるの?」
「スズカ。『さん』はつけなくていいよ」
「う、うん。じゃあスズカは将来なりたいものってあるの?」
「私もこれっていうのはないかな。ただ、物を書く仕事に就きたいって思ってる。小説家とかジャーナリストとか」
「面白そうだね、僕も将来のこと考えてみようかな」
穏やかに返してくる。話していて落ち着きのある子だという印象だ。勉強が圧倒的にできる雰囲気も余裕も傲慢さも感じられない。
ふと気になったことを尋ねる。
「そういえばケイスケってさ、植物図鑑で勉強していたよね? あれってどういうこと?」
ケイスケは少し思案すると自分の黒いリュックから植物図鑑を取り出した。いや、前とは別で「樹木図鑑」と書かれている。そんなのもあるのか。
「あれは入試の勉強じゃあないよ。僕、植物が好きなんだ。動物と違って食べ物を周りから取って来ようという発想じゃないんだ。動けないから動いて食べ物取りに行けるようになろうって発想でもない。『動けないなら栄養は自分自身で造り出そう』『余ったから周りにも分けてあげよう』って考え。尊敬するよね」
急に難しくなったぞ。テーマは光合成の話だろうということはわかる。それを動けないから作ろうって、植物の立場になって考えているのか。やはり全国1位、考え方が違う。
それからもケイスケとは今日のことなどを話し、気づいたらバスは目的地に到着していた。
小声で話しているのに、事あるごとに通路の反対にいる女の子に睨まれた。正確にはケイスケを睨んでいるように見えた。
ケイスケと同じで顔も体形もまだ幼い気がする。髪は腰まで届きそうなくらい長く、後ろでひとつに束ねている。顔立ちも整っていて、将来は美人になりそうなのにもったいない。
それとなくケイスケに聞いてみたが、知らない人らしい。
視力の悪い子で、そういう眼つきになってしまうとしておこう。
荷物をまとめ、まだ乗っている人に挨拶をしてケイスケに続いてバスを降りる。ボードを持ったおじさんもここで降り、あと三分程度歩きますと言って進み始めた。スタッフがおじさんと女子大生っぽいお姉さん2名、それに受験生12名の総勢15名がおじさんについて山道を登っていった。
目的のコテージはサークルの合宿で使われることを想定しているのか、思ったより大きかった。これなら15名と言わず、30名くらいは泊まれそうだ。
木でできた明るい茶色の外観に屋根は黒。周辺には花が植えられている。
庭は入り口から見て右側にはバーベキューをする場所が、左にはハンモックが置かれている。庭を一周囲う柵は膝丈程度の白っぽいウッド製だ。隣のコテージとは100メートルくらい離れているだろう。一言でいうなら「ザ・オシャレな別荘」だ。
柵の外側は木が無数に伸びている。コテージの後ろ側は崖になっていて奥へは進めないが、庭自体に十分な広さがあって色々できそうな気がする。家族や友人と来たらリラックスできるし騒げるし、楽しく過ごせるに違いない。
「さて、みなさん。これより高校入学及び国家認定クラス選抜試験の第三次選抜をスタートします」
周囲に気を取られていると、おじさんが話を始めた。
「まずはAチームの方はバーベキュー側、Bチームの方はハンモックのある方に荷物を持って集まってください」
Aチームには、私、ケイスケ、それに金髪の男子、胸がメロンなゆるふわ女子、ベリーショートヘアのスレンダー女子、あと特徴のない男子の6人。
Bチームは、バスでめっちゃケイスケを睨んでた女子、体格が大きく眼つきの悪い男子、あとはメガネの男子2人と特徴のない女子2人。
「別れましたね。それでは自己紹介させていただきます。私は大岩ヨウジロウ、ある高校で世界史の教師をしております。AIと共に、みなさんの試験官を務めさせていただきます。それと」
おじさん、いや大岩先生が女子大生2人に目配せする。
「高田です。よろしくお願いいたします」
150センチくらいだろうか。背の低い方が挨拶する。
「美江寺です。みなさんのサポートをします。よろしくお願いします」
背の高い女性も挨拶する。170センチくらいありそうだ。
「では第三次選抜の説明をいたします」
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