第29話 ノザレ退却戦4 クリスは怒りの雷撃を放ちました

士官学校生の退却も悲惨だった。

急遽侵攻してきたノルディン第2師団の特殊第一中隊に急襲されたのだ。

敵は100人もいなかったが、200人の半人前では相手にもならなかった。

あっという間に散り散りに逃げる様になった。


ウィルも最初は対抗できていたが、所詮12歳。あっという間に魔力も欠乏してきた。

慌ててクリスを連れて転移したが、そこで魔力切れを起こした。

ノザレまで70キロのところ、昨日の野営地の近くまでしか転移出来なかったのだ。

「うィル大丈夫!」

クリスが倒れそうになるウィルを支えようとして、一緒に地面に倒れ込んでいた。

「姉さま、ごめん、ちょっと魔力切れ起こしたみたい」

ウィルはそう言うと気を失っていた。


こうなるとおそらくウィルは1日は起きられないだろう。クリスは取り敢えず、ウィルを木陰に寝かせた。ウィルの回復を待つしか無かった。ノルディン軍が見逃してくれるかどうかは別の問題だったが。

生徒の皆は無事だろうか。多くがノルディンにやられたはずだった。

クリスは力が不安定で魔力を使えないことを後悔していた。ここで使えれば皆の役に立つのに。



クリスは2時間位だろうか、ウイルの側で静かにしていた。

そこへがさりと音がした。

クリスはビクッとする。

「コリン」

そこに現れたのはコリンだった。

「クリス様」

コリンは驚いた。とっくに転移でノザレに避難したと思ったのだ。

「どうしたんですか」

「ウィルが魔力切れなの。私達は良いから逃げて」

コリンの問にクリスが応えた。


「そんなこと出来るわけ無いでしょ。援軍が来るまではここにいますよ」

コリンが言った。

「あなたは逃げて。そして援軍を連れてきて」

クリスが首を振って言った。


「クリス様。俺はマーマレードの兵士なんです。クリス様を見捨てるなんて出来ません。一緒に逃げましょう」

コリンは言った。兵士の自分が未来の王妃を見捨てるなんて出来なかった。いけ好かない野郎なら別だが、クリスは本当に出来た令嬢で自分らは平民にも関わらず、顔と名前を覚えていてくれた。彼女をここで殺させるわけにはいかなかった。


「私達がいては足手まといよ。いいからさっさと行って」

「あのね。どうしようもない奴ならさっさと見捨てますよ。でも、クリスティーナ様だけは見捨てたら他のやつから殺されます。というか、未来のマーマレードのために絶対に守らなければいけないんです」

コリンは言い切った。



そこへノルディンの魔導師がいきなり現れた。

「お、女見っけ」

魔導師が喜んで言った。残虐王の銘は男は殺し女は犯せだった。こんなきれいな姉ちゃんを見つけられて男はラッキーだと思った。


「ほう、結構きれいな姉ちゃんだぜ」

下卑た笑いをして男達が笑った。

「貴様らは俺がやる」

コリンは剣を抜いてその男達の前に立った。

「ほう、兄ちゃんやるのか。俺達の礼儀だ。男は殺して女は犯すってな」

男が言った。

「止めて、コリン。あなたでは勝ち目はないわ」

クリスが悲鳴を上げた。


「クリス様。逃げて」

叫ぶとコリンは男達に斬りかかろうとした。

一瞬で爆裂魔法がコリンに浴びせられてコリンはボロ布のように弾け飛んでいた。


「おのれ、よくもコリンを」

クリスの感情が一瞬で切れた。昨日元気に飲み食いしていたコリンが目の前で殺されたのだ。

男達は自分が何をしたかも理解していなかった。怒らせてはいけない、虎の尾を踏んだということが理解していなかった。

凄まじい雷撃がそのクリスの指先から放たれた。男達は考えるまもなく、黒焦げになり、消滅して行った。そして、その暴走した雷撃は周囲を走り、周りの地を瞬時に焦土と化していた。

余裕の追撃戦で残虐な殺戮の限りを尽くしていた第2師団第1特殊魔導隊100名の大半は瞬間に消滅していた。

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