第22話 幕間 シャラザールごっこ

天界の公園で無邪気な子供達が遊んでいた。

警備隊の男は微笑ましくそれを遠くから見ていた。


「俺はマルスだぞ。お前らは皆俺の女だ」

男の子がそう言って二人の女の子の手を引っ張った。

「いやよ、離して」

「そうよ離しなさいよ」

「お前らな。俺は戦の神のマルスだぞ。逆らうと夫や子供がどうなっても良いのか」


その男の子の言葉に男はひっくり返りそうになった。

「何なんだ。一体。いつから子供達はこんな変な遊びを始めたんだ」

それもゼウス様の息子のマリスを悪者にするなんて。許されるのか。


「そうよ。いい気味だわ」

別の女の子が出てきて高笑いする。

「私は美の神アフロディーテ。お前ら風情が私よりもきれいだと自慢なんかするからよ。

マルス、さっさと手篭めにして」


「な、なんてこと言うんだ。今の子供達は」

男は呆然と見ているしかなかった。


しかし、そこに凛々しい女の子が現れた。

「待て!」

女の子が叫んでいた。


「キャーーーシャラザール様」

「お助け下さい。シャラザール様」

マルスに掴まつていた女の子達が歓声を上げた。


「ふん。出たな。男女。貴様などこの戦神マルスに叶うわけなかろう。ここに退治してくれるわ」

「そうよ。男女。この美の女神の前に平伏しなさい」

マルスの言葉にアフロディーテが命じる。


「フンッ、愚かな。戦神マルスが聞いて呆れる。このような悪いことをするやつが神の訳無かろう。

戦神の称号は余が、このシャラザールが今日から名乗ってやる。貴様は邪神マルスだ。

それと、そこな女。貴様が美の女神とは笑止千万。淫乱な娼婦の間違いであろう」

シャラザールは高らかに言いきった。

「何だと。黙って聞いておれば良い気になりおって。ヨガ退治してくれるわ」

「そうよ。マルス。そこの男女をやっておしまい」

マルスの言葉に便乗してアフロディーテが命じる。

「ふんっ。そこの邪神2匹。この正義の神、シャラザールが成敗してくれるわ」

シャラザールがマルスに掴みかかり、投げ飛ばす。

「ぎょえええ」

男の子が悲鳴を上げて倒れ込んだ。

「あれえええ」

アフロディーテもシャラザールに蹴飛ばされて地面に投げ出されていた。


「有難うございます。シャラザール様」

「きゃあああ、格好いい!」

助けられた女の子達がシャラザールの周りに駆け寄る。

「は、は、は。正義はかならず勝つのだ」

シャラザールは高笑いしてシャラザールごっこは終わった。


「次は私がシャラザールやりたい」

「いや、俺が演る」

「何言ってんのよ。あんた男でしょ」

「良いだろう。シャラザールは男女って言われているんだから」

男の子が叫んでいた。その言葉をシャラザールが聞かなくて良かったと男は思ったが、子供達の喧嘩は続いていた。




「どういう事だ。これは」

その噂を聞き出したゼウスは兄のポセイドンと警察庁官のオオクニヌシを呼び出した。

「巷ではやっている遊びですな」

ポセイドンがのほほんと言う。

「ポセイドン。我が息子と娘がけなされているのだぞ。あの男女に」

きっとしてゼウスはポセイドンを見た。

「まあまあ、ゼウス。所詮、子供の遊びではないですかな」

ポセイドンはゼウスを抑えようとする。

「遊びは遊びじゃが、この遊びの元があろう」

「うーん、そうじゃな。戦神シャラザールとかいう話が巷ではやっているとか」

ゼウスの言葉にポセイドンが思い出していった。

「話だと。誰じゃ。この話を書いたのは。すぐにひっ捕まえさせろ」

「書かれたのはゼウス様の息子のヘパイストス様ですが」

ゼウスの怒り声にオオクニヌシが応える。

「あの馬鹿息子か。」

「それをヘラ様が後援されていらっしゃいますが」

「何。ヘラが」

ゼウスは黙った。ゼウスと言えども妻は怖かった。先日も新たな女がヘラにバレて半殺しの目にあったのだ。やっと許してもらえたのに、下手なことを言って火に油を注ぐのは良くない。ゼウスは考え込んだ。


「ゼウスよ。やはり話には話で対抗するのが良いのではないかな」

「話で対抗するとは」

ポセイドンは自分の案をボソボソ伝えた。

「なるほど。それを学校の教科書に載せて皆に勉強させるのだな」

ご機嫌にゼウスは言った。

「よし。直ちに実行に移せ」

ゼウスの声を聞きながらやれやれとオオクニヌシはその行動を呆れ返ってみていたが、二人は無視した。幕間

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