第4話 戦神は奴隷売買をしていた豚伯爵を城もろとも火炙りにしました。

ビアンカは大声で泣いていた。


道を歩いていたら、荷馬車が横に停まって、御者が道を聞いてきたのだ。

喜んで道を教えていたら、良く判らないから一緒に来てほしいと言われて馬車に乗ると同時に猿ぐつわをされて捕まったのだ。


よく見ると中には女性ばかり10人ほどが乗っていた。

みんな後ろ手に縛れられて猿ぐつわをされていた。

「知らない人に声をかけられても付いて行っては駄目よ」

と母にはよく言われていたのだ。

それを破って男の人と話したからいけなかったのだ。

それも何も考えずに馬車に乗るなんて。

二度としないと心に決めたが、二度目はもうないかもしれなかった。

まだ12歳で小さかったが、これが噂に聞く人買い、奴隷売買の馬車だということはなんとなく気付いた。もう二度と両親に会えないかもしれない。

最近は食料事情も悪くなってきていたが、まさか人さらいに攫わるなんて思ってもいなかった。


ビアンカは

「気をつけていってくるんだよ」

とお使いに行く前に母に言われたことを思い出して泣いていた。


その泣き声が魔力にのって周りに垂れ流しになっていた。


それは何かめぼしい事は無いかと周りをキョロキョロ見ながら歩いているシャラザールを引き寄せていた。


馬車に乗り込んだシャラザールはそれが奴隷運搬の馬車だと気付いた。


シャラザールは1000年前に自ら奴隷禁止令を発令し違反者に厳罰で挑んだのに未だ無くなっていないことにショックを受けていた。


これも天界のゼウスが乱倫だから、下々の者も倫理観が乱れているのではないかと心の片隅で思った。


今すぐ、その魔力を周囲に撒き散らしている女の子に憑依して助けてやるべきかとも思ったが、本拠地があるならばその本拠地を徹底的に破壊したほうが、効果は大きかろうと少し様子を見ることにした。


馬車は途中で2泊してとある城に入っていった。


シャラザールは奴隷の売買を領主がやっているのが信じられなかった。

周りの者の言葉を聞くとどうやら、シャラザールに逆らったボフミエ魔導国の関係者らしい。

もともとシャラザールに逆らうのが気に入らなかったが、辺境の地なので無視していたのだ。それが仇になったか。

シャラザールは反省した。


馬車は城の奥まったところに止まって、

「おら、立つんだよ」

男の兵士が現れて女達を引き連れていった。

女達はその城の地下牢に連れて行かれた。


「今から領主様がいらっしゃる。失礼のないようにするのだぞ」

兵士頭が言う。


ビアンカはとんでもない所に連れてこられたと思った。

領主が自ら奴隷売買をやっているなど、もう絶対に自分は助からない。

娼館にでも売られるのだろうか。

最悪、ロリコン領主の慰み者になるかもしれない。

牢内には何十人もの女奴隷がいた。


「神様。助けて下さい」

ビアンカは神様にすがっていた。

ゼウスなら馬鹿な女だと笑って終えただろう。

しかし、ビアンカの前には曲がったことの大嫌いな戦神シャラザールがいた。

「小僧、後は任せろ」

シャラザールの声が少女に届いた。

「えっ」

と少女が周りを見渡した時、シャラザールがビアンカに憑依していた。



そこへ下卑た笑いを浮かべた太った男が歩いてきた。


「これはこれはキール様。この度も結構見目麗しい女どもを集めて参りました」


「なんかガキもいるようだが」

キールはビアンカを見て言った。

「此奴は城の下働きにどうですか。

奴隷女達の面倒を見させても良いかもしれませんし」

ビアンカに道を聞いてきた男が言った。


「まあそうじゃな。それはその方らに任そう」


「見目麗しいのはこちらの方です」

男は一人の女性の顎を掴んだ。

女は顔を隠そうとするが、

「何を恥ずかしがっている。ご領主様がご覧だ。顔を見せろ」


「ほう、なかなかの美形だな」

キールは喜んでいった。


「お許し下さい。私には主人がおります」

女は頭を下げて頼んできた。

「その旦那が、税金が払えないから貴様を連れてきたんだよ」

「税なんて、あんな無茶な額払えるわけはありません」

「ふんっ当たり前だ。お前を手に入れるために高くしたのだからな」

「そんな卑怯な」

その講義する女の頬を男は張った。

「きゃっ」

女が転がる。

「旦那を殺されなかっただけ良かったと思え」

男はニタリと笑った。


「はははは、自分がきれいに生まれたことを後悔するのだな」

キールが腹を突き出して笑った。


女は泣き出した。


「ふんっ豚がなにか言っているな」

いきなり声が後ろからした。


「何奴だ。今ふざけたことを言ったやつは」

キールが後ろの女達を振り向いて叫んでいた。


「おうおう豚がブーブー泣いておるわ」

そこにはガキと言われた女の子がいた。

しかし、その目はランランと光っていた。

黙って見ている我慢の限界を越えたシャラザールがいた。


「貴様、ガキだと思って酷いことをされないと安心しているのか」

キールは女の子を思いっきり蹴り飛ばそうとした。

しかし、女の子にさっと避けられて足が空を切ってひっくり返っていた。


「豚が慣れぬことをするから」

ビアンカはゆっくりと立上った。

「貴様。縄はどうした」

男どもが慌ててビアンカに駆け寄ろうとするが、瞬間的に弾き飛ばされていた。


「貴様、魔道士か」

驚いてキールが言った。


「ふんっ。ならどうする」

「ええい、殺して構わん。始末しろ」

後ろにいた魔道士と思われる男に言う。


男は慌てて衝撃波を放とうとしたが、シャラザールに適う訳は無かった。

一瞬で弾き飛ばされた。


「豚。何か言ったか」

ビアンカに憑依したシャラザールはキールを魔術で吊り上げた。


「ヒィィィ」

キールは足をバタつかせたが、どうしようも無かった。

「その方。奴隷売買に関わると火炙りだということを知っているのか」

「何を言っているそんな法はないぞ」

キールは反論した。


「貴様余の法に逆らうのか」

キリキリと胸元を締め上げる。

「お許しを」

手をバタバタさせながらキールは言う。


「余は上に立つ者が不正をするのは許せん。それも奴隷売買に手を貸すなど言語道断。命をもって贖え」


次の瞬間シャラザールの手からは紅蓮の炎が吹き出していた。

奴隷売買に噛んだ男たちは一瞬で丸焼けになり、炎は一瞬で城を覆った。キールの城は赤い炎で包まれて、城に回った焔は丸一昼夜、消える事はなかった。

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