『飛び込み』
やましん(テンパー)
『飛び込み』
しばらく以前、ねこママの店で、上司からねちねちと絞られ、その後、ママからなだめられていたごきがいた。
そんなことがあってから、ママに聞いたところでは、彼は、ごき軍団になかなか馴染めず、いまだに、孤立しているんだと。
生真面目なごきであるが、生き方が下手くそで、融通は利かないらしい。
まあ、おおかた、やましんみたいな、ごきで、あろう。
🚊
ある日、やましんは、もう古くなったNゲージの模型電気機関車に、ブルトレを曳かせて遊んでいた。
それだけでは、ちょっともの足りなかったので、小さなカメラを先頭機関車に装着して、その映像をテレビに飛ばしていた。
良い年して、なにやってるの、とは、女性の上司からは、よく叱られたものである。
部下の教育用のレジュメに、マンガとか、イラストをちら、と、入れていたのが、いたく、おきにいられなかったらしい。
お堅い法律の話だったから、多少は気休めが入ってもよかろうと思ったが、内容は良いが、イラストはムダとのこと。良い年してなによ。ときた。
そんなこと、言われても、自宅で遠慮する必要はない。
大きな子供みたいなものだが、やましんの鉄道模型は、生のままである。
ほんとうは、山々、川や、トンネル、ビルや、駅舎を配置したいところだが、家がせまく、給料も安いから、音楽のほうにつぎ込むと、このくらいが、精一杯である。
本物の鉄道のほうは、人間がいると、酔ってしまって、気分が悪くなる事があり、あまり、乗りたくはない。
特に通勤電車は、最悪である。
生きている心地がしない。
よく、あの、地獄みたいな満員電車に、平気で、乗っていられるものだと、感心する。
自分が、悪者のような感じになり、とても、落ち着いてなんか、いられない。
模型なら、問題ない。
『発車あ!』
と、畳の上の、やや不安定なコースを、電気機関車と、ブルトレは、走る。
途中、木のテーブルの下を潜るのが、トンネルである。
暗がりから現れる様子が、テレビでみると、なかなか、悪くない。
まもなく、分岐い〰️〰️〰️〰️!
なんて、やっていた、その瞬間であった。
真っ黒な巨大物体が、線路内に侵入したのだ!
『おわあああ!』
ブレーキかけたが、間に合わず、機関車は物体に衝突し、ブルトレごと、だっせんちんぷくした。(やましんは、脱線転覆を、小さい頃から、そう呼んでいた。)
その物体は、どうやら、くだんの、ごきさんである。
つまり、飛び込み自決したのだ。
けれども、残念ながら、模型機関車には、それだけの力はなかったのだ。
線路上に立ち尽くしたごきさんは、やがて、もそもそと動き出すと、タンスの陰に消えていった。
『ああ、やましんには、助けるすべはないよなあ。許してくらさい。』
やましんは、ぼさっと、つぶやいたのである。
🚂
『飛び込み』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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