第30話 霙の悩み

 霙は、日課となっている短いメールのやり取りを楽しみに待っていた。

「あ、来た来た。ええと。『友達ができた。成宮 薫というクラスメイトで、話しやすくていいやつだ』かあ。へえ。どんな子なんだろう。えっと、『よかったね。美人?』と」

 ややすると、次が来る。


     美人の部類かとは思う


「ほお。美人」


     良かったね、真秀。友達は大事にしないとね。


 そう返信し、後は他愛もないやりとりを少しして、本日のやり取りは終了する。

 スマホを机に置いて、霙は嘆息した。

「いかにも美人そうな名前よね。成宮 薫。

 はっ。まさか、浮気?いやいや、真秀に限ってそんな。

 でも、私は結局、何をしてもどうもなあ。真秀のお嫁さんに相応しいのかな」

 夏休みに、霙は色々とやった。

 バイトは短期バイトを3つ。市民プールの売店の販売員はできたし、花火大会の準備ではポスター張りや会場の設営を手伝ったし、図書館の資料の点検は大事なところは司書がしたので、霙がしたのは、荷物運びだ。

 黒瀬家の嫁なら必要かと、お茶、お花、着付け、書道をしたが、どうにも情けない結果になった。

(真秀は順調に行ってるのね。それに引き換え、私は。とほほ)

 自信がなくなっていた。

 勉強も普通の上あたりで、国立大学なんてとても無理だ。

「真秀は余裕綽々だもんなあ」

 霙は、待ち受けの真秀とレインの写真を見て、口を尖らせた。

 流石に受験生なので会いに行くわけにはいかないし、交通費が地味に痛い。サバイバルゲームの用具を買うのに大抵いつもカツカツで、貯金などないのだ。今は同好会も引退したが、勉強する時の友と称するお菓子や、息抜きと称してたまにマヤ達とファミリーレストランなどへ行くのに使う。

 写真をスクロールして、自分で着た浴衣を見た。

 格闘して、どうにか帯を結べたものだ。

「一緒に、花火とか行きたかったな。近くに相手がいる人はいいなあ。私も真秀に会いたいなあ。

 きれいだったのになあ。天気も良くって、お月様もきれいに……月……」

 ゴールデンウイークにベランダからま真秀と父と3人で月を見た事を思い出す。

「待って。あれ、お父さんに邪魔されなかったら、キス、してた?いや、どうかな。私の願望?あれ?どうなんだろう。

 ああ、何であの時お父さん来たのよ!もう、バカ!」

 霙は頭を抱え込んで、ベッドをゴロゴロと転がっている所を空に見つかって不審そうに見られたのだった。


 霙と空は、ココアを飲んでいた。

「お姉ちゃんの結婚式、もうすぐだよね」

 空は照れたように笑った。

「突然で、驚いたわよねえ。この子の出産予定日が冬休み中だから、休学しないで通うつもりだけど……大変そうだわ」

 それに霙はクスクスと笑った。

「手伝えることがあれば手伝うよ、お姉ちゃん」

「そういう霙はどうなの。何か、元気ないわね」

「そんな事ないよ?」

 でも、空はじいーっと霙を見、霙は溜め息をついてそれを認めた。

「私、自信なくてね。あんな由緒ある家の嫁が務まる気しなくて」

「でも、真秀君は『元大名でも今は普通の家だ』って言ってたでしょ?」

「真秀よ。何でも涼しい顔でそつなくこなす真秀よ。それが普通のレベルだったらどうするのよ」

 霙が大真面目に言うのを空は笑い半分に聞いていたが、ちょっと想像して、真顔になった。

「それはまずいわ」

「でしょ!?」

「でも、どうかなあ。普通じゃないのかなあ。

 とにかく、あんた達はもっと話すべきだわ。

 はあ。あんたにとって、これが初恋だもんね。過去に何も、参考にできる事もない」

「悪かったわね」

「あはは!まあとにかく、話し合いが足りないのよ。スカイプとかも活用しなさいよ」

「え、あれは恥ずかしくない?だって、会いたくなるじゃないの」

「……心配いらないか」

 空は苦笑を浮かべた。





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