第27話 1発入魂

 ここまで、ドローである。

「まさか、ここまで善戦するとは」

 利子はふふふと笑った。

「そっちこそ」

 同じくふふふと霙も笑う。

 が、内心では、

(ミラクルだわ!)

と拍手喝采である。

「じゃあ、1発ずつ交互に」

「わかった」

 お互いのチームで集まる。

「嘘みたいだな。強豪チーム相手に」

 半蔵が興奮したように言う。

「でも、ここからで決まるわ」

 マヤが表情を引き締める。

「射撃の正確性なら、間違いなく半蔵だけど。霙、やるんだろ」

 ハカセが確認する。

「そうね。元々は私と島津さんの戦いだもの。そうなるでしょ」

「霙。落ち着いて。やればできるから」

 半蔵がそう言って、霙の手を握った。


 利子が言った。

「じゃあ、これで決めましょうか」

「ええ」

 霙が応える。

 そして霙と利子が前に出た。


「真ん中」

「真ん中」

「真ん中」

「真ん中」

 先攻はジャンケンで勝った利子。

 2人共、外さない。恐るべき集中力だ。霙は、これまでで最高の得点を出している。

 見ている皆も、息を詰め、目を凝らす。

 と、初めて利子が、2重目の縁に弾を外した。

「ちっ」

 次は霙だが、それを見て、却って緊張してきた。

(落ち着け、落ち着け)

 大きく息を吸い、吐き、止める。

 微かに揺れていた銃口が止まる。

(今――!)

 引き金をそっと絞るようにして引く。

 パンという音がして、弾が飛んで行った。

「……うそ……」

 霙もまた、同じだけ外していた。

「これってさあ、あんた達、物凄く気が合うって事じゃないの?」

 マヤが疲れたように言う。

 霙と利子が、不満をあらわにした目を、同時にマヤに向ける。

「そうそう。そういうところ」

「どうしましょう、島津さん。レンタルの終了時間になりそうですが」

 利子のチームの女子が、時計を見ながら控えめにそう訊く。

「しょうがないですわね。勝負はお預けかしら」

 含み笑いをした利子に、霙達はややうんざりした顔付きをする。

「あと1発。これで決まらなかったらもう1度」

 霙がそう言うと、

「ええ、いいわ」

と、利子も同意する。

 互いに、的に向かい合う。

 利子が構えた。そして、引き金を引く。

 そのほんの一呼吸前、腕が撃って、微かに銃口がブレた。

「あ……」

 弾は大きくその着弾点を外していた。

「島津さん!」

 利子のチームメイトが浮足立つ。

「お黙りなさい」

 利子がそれを咎め、霙を見た。

「あなたの番ですわ」

 霙は、利子の小さく痙攣する腕を見た。

(島津さんのハンドガンの方が、重量が重いから。これだけ射撃を続けて、腕に来たのね。

 こっちもヤバいけど。でも。負けるわけにいくもんですか!)

 霙は目を的に向け、大きく深呼吸した。

(集中!)

 息を静かに吸い、吐き、吸い、止める。そして、そっと、軽く、引き金を引く。

 世界がゆっくりになったような気がした。

 弾が的に当たった。

「当たった……」

 オバQが、ほっとしたように言った。

 弾が真ん中近くに当たったその的を見ながら、利子は絞り出すように声を出す。

「私の負けですわね」

「島津さん」

「今回は諦めてさしあげるわ」

「え?島津、さん?今回は?」

 利子は霙に指を突きつけて、キッと睨みつける。

「勝つまで諦めませんわ!」

「ええ!?」

 霙は、よろよろと後ずさった。

「と、とんでもない人に睨まれちゃったんじゃ……」

 ハカセが怯えたように言い、マヤが呆れたように言う。

「往生際が悪いね」

「だって!黒瀬家の当主になられる方ですよ!?世が世なら大名、一国の主です!それが、こんな……!」

 霙はフンと腕を組んで仁王立ちになった。

「島津さんも、世が世なら一国の御姫様よね」

「そうですわ!」

「じゃあ、世が世なら、戦いを挑んできて討ち死にしたようなもんよね」

「う」

 利子は睨み返した。

「ゾンビ行為、禁止だから」

 利子は、肩を落とした。

「……え」

「え?」

「せいぜい負傷ですわ!まだ戦えますとも!」

「ええーっ!?」

「これまでの試合は何!?」

 霙達のチームメンバーは、愕然とした。

 その時声が聞こえた。






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