第26話 意地と意地

 戦いのフィールドは屋外で、霙達の守る陣地と利子達のスタートする位置は800メートル程離れており、間に、ちょっとした木立、ドラム缶、立てられたベニヤ板がある。それらを遮蔽物に利用したりしながら、自分達の旗を守りつつ、相手の旗を獲りに行く。

 攻守のバランスと連携が大切になって来るゲームだ。

 霙とハカセが、接近して来た敵を排除して旗を守る係だ。身を隠しながら、気配を断ってじっと待つ。

 残り4人で攻めていく。


 利子のチームは、男子4人女子2人だ。女子の利子でない方と男子の1人が旗を守る位置に潜み、残りが攻めていく。

 図らずも、同じ作戦である。

 男子の伊東は、フィールドの東の端を通るようなルートで前進していた。

 と、前方から微かににおいがした。

(虫よけスプレーだな。バカなやつ)

 それで良く見ると、茂みがこんもりと茂っているところが、ちょうど人が1人隠れるのにちょうどいい程度だ。

(貰った!)

 茂みに向かって、弾を撃ち込む。

 が、手ごたえがない。

「あれ?」

 手を止めた時、背中にポツンと弾が当たる感触があった。

「え?ヒット」

 木の陰に寝そべって狙撃したオバQが、そっと呟いた。

「1人キル」


「オラオラオラオラ!」

 軍曹と向こうの男子の西郷は、真正面からほぼ同時に相手を見付け、撃ち合っていた。

 身を隠してはやり過ごし、隙を窺って撃ち返す。その繰り返しだ。

 横合いに早く回り込んだ方が有利だ。

「あああ、早く誰か、くそお!」

 言っていると、視界の端に動くものが見えた。敵か味方かはっきりしない。

「どっちだ!?」

 言っていると、こちらに弾が2発飛んで来て、片方が当たった。

「くそお、ヒット!」

 手を上げて出て行くと、相手の男子別府と西郷が銃口を下ろして姿を見せた。

 と、その2人が立て続けにヒットされる。

「ひ、ヒット」

「ヒット」

 出て来たのは半蔵だ。ヒットマンにしか見えない雰囲気で、

「2名キル」

と言い、素早く立ち去った。


 利子は、立て続けに味方がやられた事にやや驚きつつ、旗を守る男子富岡に、攻撃に出るように指示をした。

 そして、素早く敵陣に近付いて行き、見つけた半蔵を撃った。

 が、半蔵も撃っており、どちらも初撃を避けていた。

 撃ち合い、避けあいになった。


 富岡は中央を突破するルートで急いでいた。

 と、体をかすめるように弾が飛んで来た。これにヒットしなかったのは、幸運だ。そして反射的にそちらへ撃ち込む。狙いは定かではなかったが、引き金を引いてから同時に移動しつつ敵を探す。

 オバQは足元の小枝を踏んで体勢を崩し、ヒットした。

「ヒット。あーあ」

 富岡は内心で安堵の息をついて、敵陣を目指した。


「半蔵がやられた!」

 ハカセが緊張を漂わせて言う。

「これで、こちらは私とハカセ。向こうは3人ね」

 霙は小声で返す。

 残り時間は、それほどない。

(まずいわね。ここはハカセに任せて私が旗を獲りに行くべき?でも……)

 どのくらいまで相手が接近してきているのだろうかと、不安と緊張でいっぱいだ。

(負けるわけにはいかない!)

 そう思った時、視界の中で何かが動いた。

 と同時に、ハカセが撃っている。

「ヒット」

 向こうで、富岡が両手を上げて立ち上がった。

(これで、五分五分!)

 心臓が大きく打った。


 利子は、敵陣地が見えたところで、追い付いて来た富岡がキルされるのを見た。

 富岡は利子に目をやらず、ゆっくりとフィールドから出て行く。

(これで、今は同じですわね。やるじゃない)

 利子はニヤリと笑い、敵陣目掛けて前進した。


 遮蔽物の陰から、利子が躍り出てハカセを狙う。

 が、ハカセは素早く引っ込んでそれをかわした。

「ちっ」

 あとは、遮蔽物の陰から、ひたすら撃ち合う。撃ち合って、撃ち合って、撃ち合う。

 霙は、飛んで来る弾が、スローモーションで真っすぐ自分の胸に飛んで来るのが見えた気がした。

(やられる!)

 そう思った時、20分経った事を知らせるブザーが鳴り、助かった事を知る。

「……やばかった……」

 背中がどっと熱くなり、脇腹を汗が伝うのがわかった。

「これが冷や汗かあ」

 呑気に呟いて、悔しそうに立つ利子を見た。


 

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