第20話 進路指導――真秀
スマホがメールの着信を知らせ、真秀はそれを確認した。
霙からで、ネコを抱いて自撮りで写真を撮って送れとある。なので、「わかりました」と返信する。
(そうか。俺が一緒に写っていれば、大きさとかも比較してわかるからな。うっかりしてた)
そしてスマホをしまったついでに、定期入れを眺める。
眺めているのは電車の定期券ではない。その裏に入れてある、霙の写真だ。
「お、噂の彼女か?」
ひょいと覗いた担任がからかうような声音で言う。
この前の祭りの時に、真秀に許婚者がいるというのは広まっている。当然、担任も耳にしていた。
「はい」
言いながら、担任と一緒に教室に入る。今日は進路相談の日だった。
「楽しそうでいいなあ」
担任はにこにことして椅子に座り、真秀も対面の椅子に座った。
「ええっと。黒瀬は東大の法学部志望か。理由はあるのか?」
「はい。手に職を付けたいので法学部を志望しました。東大は、彼女の家が、その近所だからです」
「……堂々としてるな」
担任は苦笑を浮かべ、資料を繰った。
「成績的には問題はないな。このまま維持して、当日風邪を引かないようにすることかな」
「はい」
「彼女の事を考えて気を抜くなよ」
「まさか。彼女の事を考えれば、彼女を養うためにもっとできる事をしておこうと思います」
「ああ、そっちのタイプか」
担任はポリポリと頬をかいて、言った。
「ひとつ、忠告しておいてやる。
いいか。忙しいからって、女は放って置いたらだめだぞ。どうも黒瀬は、そのタイプだ。勉強しなければいけない時なのは当たり前だろう、仕事が忙しいのは見てわかるだろう。それが通じないんだよ、時には。女ってのは、感情を理性よりも上に持って来る事があるからな」
嫌に真剣な表情で、真秀も真剣に聞く。
「まさか、先生」
「ああ。実体験だ。例の有名なアレだよ。『私と仕事とどっちが大事なの』」
「場合にもよりますが、仕事の場合が多いですよね」
「だろ?でも、それでフラれたからな」
「理不尽だ……」
「メールくらいなら、手間を惜しむな。いいな」
「はい、先生」
真秀と担任は、見つめ合って、頷いた。
真秀はレインを抱いて、自撮り写真を撮り、送った。
「よし」
そして、レインを見る。
見付けた時は汚れと血のせいで黒っぽい色と見えたが、洗ってみれば、真っ黒だった。今はつやつやと毛並みも整い、かなりの美猫に見える。
それに、公園で見付けた時はかなり警戒して暴れたが、今ではすっかり懐いて、朝は前足で突いて起こし、出かける時には玄関で見送り、帰って来れば喜んで飛びついて肩によじ登る。勉強する時は邪魔をしてはいけないとわかっているらしくよそにいるが、それ以外は寝るまで、構って、遊んで、と催促してくる甘えん坊だ。
「まだ子猫だからな」
「にゃあ」
首周りを撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし、もっと撫でろと頭をこすりつけて来る。
「霙も会いたがってるぞ」
「にゃ」
「俺も会いたいけど、まあ、夏休みかな」
「にゃっ」
「でも、受験だしな。浮ついた気持ちでは困る。
いや、でも、先生も言ってたし。やっぱりちょっとは、こう、放ったらかしというのも、なあ?」
「にゃああ」
「どう思う、レイン」
「にゃっ」
猫相手に相談していると、霙から返事が来た。
急いで読む。
レイン、大きくなったね。
会いたいなあ!
そして、やはり自撮りの写真が添付されてきた。愛用のライフルを抱えた姿だ。
「会いたいだって。
待てよ。レインに会いたいってことだよな、やっぱり。そうだよな。
だめだ、シャキッとしなければ」
真秀は表情を引き締めながら、
(今度、黒猫のぬいぐるみを見付けたら贈ろう)
と決めたのだった。
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