身代わり女王の七日間

紫藤市

一日目 1

 デュソール王国の若き女王ヴィオレーユが王宮から姿を消した。

 在位二年目の初夏のことだ。

 七日後には、女王とプルミエ公爵子息シリル・エルネスト・ガヴィニエスの婚約披露宴が王宮で催されるというのに、婚約者であるプルミエ公爵子息宛ての書き置きひとつだけを残して、護衛官たちの目を盗み執務室から隠し通路を使って失踪した。

 宰相はすぐさま箝口令を敷くと同時に、女王探索を始めた。

 さらに、女王の王宮不在を隠すため、ある計画を断行した。


 初夏を迎えたデュソール王国の王都ファヴェリエでは、七日後に王宮で開催されるヴィオレーユ女王の婚約披露宴と祝賀行事の準備で盛り上がっていた。

 前国王の崩御から一年半が経過し、弱冠十五歳で即位した未婚の女王の婚約が正式に発表されるのだ。前王の喪が明けて最初の慶事ということもあり、王宮だけでなく王都のあちらこちらで女王の婚約を祝う催し物が開かれることになっている。

 プルミエ公爵家では、正式に女王の婚約者となる嫡男シリルの準備と、婚約披露宴に出席する公爵夫妻と令嬢の準備で大騒ぎだった。

「やっぱり、髪はこてで巻いてから結った方がいいかしら。でも、髪飾りはお母様からいただいたお祖母様の形見の銀のかんざしにしたいのよね」

 鏡台の前に座ったプルミエ公爵令嬢フランシーユ・ガヴィニエスは、母親譲りのゆるやかに波打つ蜂蜜色の髪を指先で摘まみながら侍女のニーナと相談をしていた。

 二人は昨日からずっと婚約披露宴に出席する際のフランシーユの髪型で悩んでいる。

「では、今日はまず鏝で巻いて結ってみましょう。細めに巻いた方がよろしいですか。それとも、太めに巻きましょうか」

「そうねぇ。このくせっ毛だと太い鏝で巻いた方がいいかしらね」

 普段であれば家庭教師による午後の授業の時刻だが、今日から婚約披露宴の当日までは授業が休みになった。フランシーユは婚約披露宴の主役ではないが、兄の婚約披露宴が十六歳の彼女にとって初めての社交界への参加である。

 フランシーユにとって、五つ年上の兄シリルは理想の王子様だ。

 癖のある亜麻色の髪に宝石のような輝きを持つ青玉色の瞳、母方の祖父に似て整った容貌に引き締まった身体から伸びる長い手足。誰にでも公平で優しい人柄だが、妹にはとびきり甘い。当代のプルミエ公爵であり現宰相を父に、前国王の妹マリアンヌ王女を母に持ち、従妹であるヴィオレーユ女王の婚約者。

 そんな兄が、フランシーユは物心つかないうちから大好きだった。

 幼い頃から彼女は「わたしがおにいさまとけっこんする! おにいさまはおうじょさまとけっこんしてはだめなの!」と言ってはシリルを困らせ、両親から兄妹は結婚できないのだと幾度も諭されたものだ。

 クレール公爵家の子息アンセルム・ランヴァンとの婚約が決まった際は、目にたくさんの涙を溜めながら「おにいさまとけっこんしたい。アンセルムとはけっこんしない。いじわるなアンセルムなんかだいっきらい!」と両親に三日間訴え続けたほどだ。

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