月日による変化 ~さようならを告げることも叶わない~

「名前を聞くまで全然気づかなかったよ」

「あれから10年以上経ってるし、今はお化粧もしてるからね」

「そっか、確かに……やっぱ化粧してると結構違うんだね。小学生の頃の面影全然ないんじゃない?」

「そ、そうかな? そんなに変わった?」

「うん、なにせ小学生からいきなり大人の顔になってるからね、僕の中では」


 大人の顔。

 お世辞でもいいから綺麗になったとか、言って欲しかった、なんて。

 既婚者に対して私は何を考えているのだろうか。


「片山……っとごめん。片山"さん"だよね。お互い大人だし、何より先輩だった」

「そう……だね。昔から知ってるから呼び捨てでも私は気にしないけど、ここは会社だもんね」


 気にしないどころか、むしろ呼び捨てにして欲しいとさえ思っている。

 ここに居る多くの同僚の中で、少しでも特別が欲しいと私は思ってしまっている。


「片山さんも僕のこと最初は気付いてなかったんじゃない?」

「もしかしたらとは思ってたけど……そっちの反応がないと確信は持てなかったかな」


 嘘だ。

 本当は一目見た瞬間から気付いていた。


 だってあなたはずっと私の中に居たから。

 夢に何度もあなたが出てくるものだから、忘れたくても忘れられなかった。


「それにしても、まさかこんなところで再会するなんてね……」

「うん、こっちもビックリだよ。……苗字も、変わってたから」

「ああ、うん。結婚したんだ。婿入り」

「うん……おめでとう」


 私は今、笑えているだろうか。

 10年以上振りに再会した級友の結婚を、きちんと祝福できているだろうか。


「えっと、これからは新しい苗字で呼ばないとなんだよね……。あははっ、ちょっと呼び慣れないかも」


 小学生時代も彼の苗字を呼び慣れたことなんてないのに。

 いつも心の中で思っているだけで、口にしたことなんて数えるほどしかないのに。


 困っている様子を見せたら、優しい彼は……。

 もしかしたら、昔の苗字で呼ぶことを許容してはくれないだろうか、なんて……。


「……うん、迷惑をかけるけどお願いします」


 少し申し訳なさそうで、それでいて新しい苗字を喜んでいるような笑顔が、余計に私の心を締め付けた。


「っ……うん、よろしく……やぐち、くん」


 ああ、さよなら。

 今度こそ本当にさようならだ。


 私の初恋。

 ずっと思い焦がれた運命の相手。

 きっともう二度と出会えない。


 さよなら、天塚涼くん。

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