出す壺、吸う壺

田中 幸樹

第1話 霊能師

 「どちらか1つだけ、お選び下さい」


霊能師の言葉に、女性は悩んだ


どちらの壺なら、娘が救われるのかと




 女性には、一人の娘がいた


娘は、生まれた時から治療出来ない病を抱えていた


女性は、なんとか治療出来る医師が居ないかと、知人友人に相談したが見つからなかった


諦めかけた時に、一人の友人が紹介してくれた


 奇跡の霊能師がいると





 藁にも縋る思いで、女性は霊能師に会ってみることにした


霊能師とは、霊能師が主催する道場で会う事になった


道場には、正面に大きな神棚あり 総板の間 そして、薄暗かった


神棚には多数のロウソクが燃え、その炎の揺らめきの光が道場を不思議な空間としていた


巫女装束を来た、年配の温和そうな女性の霊能師が入ってきて目の前に座った




 

 その年配の霊能師は、女性を優しく見つめてから 女性の頭を撫でた


 「さぞや、辛かったでしょうね」


そう霊能師は悲しそうな顔で女性に語り掛けた


霊能師がそうさせたのか、道場の雰囲気がそうさたのか


女性は、堰を切ったように霊能師に話し出した


娘の事 夫の事 自分の事 親戚の事 近所の事 


辛い事、助けが欲しい事


優しく頷きながら、霊能師は全てを聞いていた




 「では、現在の因果を知る為に貴方の宿業を見たいと思います。 人は沢山の輪廻を重ねその中で宿業を背負います、どの宿業が今のあなたに影響を及ぼしているか、あなたの前世を見て調べてみますね」


霊能師は立ち上がり、神棚の前から香炉持ってきた


女性の前に、香炉を置くと袖から何かを包んだ白い紙を取り出し 


包みを開くと中の物を、香炉にくべた


甘い香りが立ち上る


何処からか銅鑼が鳴り響き そして 一定のリズムで コンコンと金属叩く音が聞こえだす


「始めますね」


霊能師は広げた手を、女性に向け瞑目した。




 「私が観た所、あなたは8回の輪廻を重ねていました、本日観れたのは、その中の一つでした、その前世ではあなたは沢山の子供達に囲まれ大変幸せそうでした また 周りの人達にも細やかな気配りをもって親切な行いをしていたようです 最後は沢山のお孫さんや親族に看取られ霊界にお帰りになっておられました」


「では、私の宿業は関係ないのでしょうか?」


「いえ、8回の輪廻の中で観れたのは、1回分の前世だけです。 一度に沢山の前世を観ると貴方の霊核に負担を与えてしまい良くないのです」


「そうですか」


「どうかまた、お越しください。 因果さえ観れれば、私があなたを必ず助けてみせます」




 女性は、それから何度も霊能師を訪ねた


霊能師はまず、女性の話を聞いてくれた 不安や悲しみを何度も優しく聞いてくれた


女性の前世の一つは、ある大名家の姫であったり 大地主のお嬢様だったりと良い輪廻をめぐっていると教えられた


女性は、自分の前世 姫だった時の話やお嬢様だった時の話にいたく感激していた


そして、5度目に訪れた時に霊能師が前世を観た後、悲痛な顔をした


今まで前世を観た後は、優しく笑顔で語ってくれた前世の話 今は悲痛な面持ちで顔を歪めている










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