流れ着いた小瓶を拾う
とくにやることも無いので、俺はぼんやりと砂浜から海を眺めていた。そこはとても静かな海岸だった。
海を見続けていると、海面に太陽の光に反射して、きらりと光るものが現れた。なんだろうかと気になって見に行く。きらりと光る何かは砂浜に打ち上げられた。おかげで労せずその正体を確認できる。
「小瓶か」
瓶の中に手紙を入れて海に流す遊び。俺も昔やったな、なんてふと思い出に浸ってしまう。
子どもの頃、俺は無邪気に瓶の中に手紙を入れて地元の海から流したのだ。何を思ったのか「こんにちは!」なんて書いて瓶に入れた気がする。すっかり時間の流れに影響されなくなった俺にはあの日の思い出がまるで今日のことのように鮮明に蘇ってくる。
『こんにちは!』なんてメッセージをもらったって、拾った人間は困るだろう。どこかの誰かが流した瓶を偶然拾うという体験の素敵さが台無しになってしまうに違いない、と大人になった今では思う。
とりあえず、先ほど流れてきた瓶の蓋を開けて中身を取り出してみる。あの日の俺のように無邪気に誰かが書いた手紙の内容を確認する。
「おいおい、まじかよ……」
中身を見て俺は驚愕した。
『こんにちは!』
そう書かれた手紙は間違いなく、あの日俺が書いたものであった。そんなことってあるんだな、とただただ予期せぬ出来事に驚くしかない。
そして、遠い海を越えてやって来た手紙は心にしっかりと響いた。思わず心に沁みて涙まで出てくる。
なるほど、やはり書かれている内容ではなく、誰か人間が書いた手紙を拾うという体験に感動が伴うということが、実際に拾ってみてよくわかった。
無人島で何週間も過ごすというのは、それくらい人間のことが恋しくなるのである。
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