迷子ネコを届けてもらった話

私は半ば諦めていた。飼っていたネコのマルがいなくなってから3ヶ月の月日が経ってしまっていたから。あれだけ気を付けて飼っていたのに、うっかりベランダの鍵をかけ忘れてしまったせいで逃がしてしまうなんて。軽率な行動を私は心の底から反省した。一人暮らしの私にとって、家族同然の大切なマルだったから、ネコを探しているという趣旨のポスターもたくさん貼って、必死に探した。それでも見つからなかったからもう駄目だとおもっていたのに……。


「いやあ、もっと早く教えて上げられていたら良かったんですけど、すいません。ネコちゃんの飼い主がどなたかようやくわかりましたので」

「いえ、そんな。本当にありがとうございます。本当になんとお礼を言ったらいいか……」

なんと3ヶ月の月日が経った今日、見知らぬ家族がマルを連れて来てくれたのだ。


私よりも少し年上の夫婦と小学校低学年くらいの男の子と女の子の計4人の家族総出で、マルを届けにやって来てくれたのだ。家族全員で家出ネコを届けに来てくれるなんてことは珍しいので、初めはこの後家族でお出かけにでも行くからそのついでにやってきたものだと思っていた。


私が玄関で何度も何度もありがとうと謝っていると、マルを届けてくれた家族の父親が「そんな何度も謝らなくても大丈夫ですよ」と優しく言ってくれた。そこまでは良い人だなと思って、心を温かくしていたのだが、その言葉に続いて母親が衝撃的な言葉を私に投げかけた。

「そうですよ、私たち今日から家族になるんですから、そんな水臭いことはやめてください」

「……はい?」


家族になる?


突然出て来たわけのわからない言葉に私の頭は混乱した。

「あの……言ってる意味が……」


「ああ、そうでしたね、少し話を省略しすぎましたね」

父親が変わらず穏やかな笑みで言う。


「ネコのマルちゃんなんですけど、うちで保護しているうちに、僕たち愛着が湧いちゃいまして、なんだか返すのが惜しくなって、お別れしたくなくなっちゃったんですよね」

父親が淡々と説明していく。マルはとても人懐っこくて愛らしいから、その気持ちはわからないでもない。当然マルは私にとっても大切な子なので、返してもらわなければならないが。


「返すのが惜しくなっちゃったんですけど、かといってよそ様のネコちゃんなので返さないわけにはいかない。そこで私たち、考えたんです!」

さも名案を考えたかのように母親が言う。

「私たちが元々マルちゃんの住んでいたこの家に引っ越してくることで私たち家族も、あなたも共にマルちゃんと一緒に暮らせますよ!」


「そういうわけなんで」

と言って今にも室内に入って来そうな家族を私は慌てて制した。

「……帰ってください」

「えー」とか「ちょっと」とか不満声を出している家族を半ば強引に家の外に出してた。しっかりと鍵を閉めて、チェーンもしておく。


もう鍵は閉め忘れないようにしないと、私は心の底からそう思った。足元で可愛らしく鳴いているマルだけが、やはり私の心の癒しである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る