嘆きの花子さん
「思ったより遅くなっちゃったよ……」
委員会活動で帰りが遅くなってしまった私は、帰る前にトイレに入る。
外は何だか暗くて校内は少し薄気味悪い。
扉が開いていたので当然誰も使ってないものかと思い入ってみるとそこには私の知らない少女がいた。
「あ……。使用中でしたか。すいません」
慌てて出ようとしたが少女に「ちょっと待ちなさいよ」と引きとめられてしまった。
「せっかく来たんだからちょっと愚痴でも聞いていってよ」
といい、ラムネの瓶を渡される。
「あの……これは?」
私はまだ冷たいラムネの瓶を持って目の前の少女に聞く。
「飲まなきゃやってられないでしょ?」
そう言って少女はビー玉を押し込みふたを開けると、ポンッと綺麗な音が静かなトイレ内に響き渡る。
「あなたも飲んでいいわよ」
私はお言葉に甘えてビー玉を落とそうとするも上手く落ちない。
「ちょっと貸して」
女の子は器用にビー玉を落とした。
「最近の若い子はラムネも開けられないのね」
私と同じくらいの歳に見える少女に言われてしまい少し恥ずかしくなってしまう。
「ラムネ開けてあげたしちょっと愚痴らせてよ」
私が「はい……」と小声で頷くと少女は話を続ける。
「最近みんな私のこと可愛く描きすぎじゃない?」
「え?」
あなたは誰なんですか? と言いたげな目を察してくれたのか少女は名を名乗ってくれた。
「あなた、ちゃんと目の前にいる私がトイレの花子さんってわかってるんでしょうね?」
サラリとしたパッツンの髪にほんのり化粧をして、制服を少し着崩し、予想よりも少し大人びている。
目の前の少女はまさにここ最近可愛く描かれすぎてる花子さんを象徴するような容姿をしていた。
私は困り「そうですね……ハハハ……」と愛想笑いを返す。
「私たちはアイドルじゃないのよ。人を怖がらせてなんぼみたいなとこあるのに商売あがったりよ」
滔々と語る目の前の少女にいっそアイドルでも目指した方が商売に繋がるんじゃないですか、とアドバイスしてあげたい。
それはそうと……
「どうして飲まなきゃやってられないのにラムネなんですか?お酒とかじゃないんですか?」
そう言うと花子さんは顔を真っ赤にして注意する。
「お酒は二十歳にならないと飲んじゃダメなのよ? あんた不良かなんかなの?」
しっかり悪い事を注意するギャップ萌えも備え付けた彼女に、可愛らしい花子さんそのものですねと喉元まで言葉が上がってくる。
言葉に出すとさらに可愛らしい姿を見せつけられそうだったので、喉まで出かかったその言葉をラムネで一気に飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます