交渉へ向かった者

「なんで姉さんがそんな危ないところへ行かなければならないんだ!」

「離してちょうだい。それが私の仕事だから」


これから敵の組織との交渉に向かおうとする姉のことを弟が必死に止めていた。少しでも交渉の手順を誤れば、すぐにでも殺されてしまうだろう。命が何個あっても足りないような危険な交渉の場へ姉を向かわせるわけにはいかなかった。


「姉さんの代わりに僕が行く! 姉さんを危険な目に遭わせるわけにはいかないよ!」

「あなただって危険な目に遭っちゃうでしょ!」

「姉さんが行くよりもまだマシだろ!」

「ダメよ!」


2人は長い時間言い争いを続けた結果、ようやく弟が姉の身代わりで危険な交渉へと向かうことに決まった。

「じゃあ、行ってくるよ」

「気を付けてね……もし危ない目に遭いそうだったらすぐに帰ってくるのよ……」

ほとんど泣きそうになりながら、姉は弟を見送ろうとした時だった。


「おい、何もお前が行くことはないだろう」

そんなときに現れたのが弟の親友だった。2人は未就学児の頃からの親友で、心の底から信頼しあっている仲である。

「姉に行かせるわけにはいかないんだ。だから僕が行くことになった。わかってくれよ!」

「いーや、ダメだ。俺が行く」

「なんだって?」

まさかの親友からの申し出に弟は困惑する。


「申し出はありがたいが、これは元々姉の問題なんだ。無関係の君に身代わりになってもらうわけにはいかない」

「何言ってんだよ、親友の姉の問題は俺の問題でもあるだろ。水臭いこと言うなよな!」

そうして結局弟の親友が身代わりで危険な交渉へと向かうことになった。


「ちょっと、待ちなさいよ!」

いざ向かおうとすると、今度は弟の親友の彼女が現れた。

「私たちは一蓮托生、ずっと一緒って言ったでしょ! あんたの代わりに私が行くから!」


「君たち、ちょっと待ちたまえ。生徒の問題を解決するのが教師の役目。ここは彼女の担任の僕が」

今度は弟の親友の彼女の担任の先生が現れた。


「ちょっとお待ちなさいな。わたくしが」

「俺が」

「小生が」




交渉の場には、姉と交渉をするはずだった男が一人煙草を吸って待っていた。


“トントン”

ノックの音が静かな部屋の中に響き渡る。


「入れ」

その男の声に誘われて交渉へとやってきた人物が入室してくる。


「お前、何者だ!」

20歳前後の女性が来るものだと思っていた男はひどく驚いた。


「ワタシガ、ハカセノダイリデコウショウニヤッテキタモノダ。サア、コウショウヲハジメヨウデハナイカ」

そこにはどういう経緯で代理になったのかは分からないが、なぜかロボットが立っていた……

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