手品師の転機

とある手品師の男が銀行に来ていた。


彼は腕はいいのだが商売に不向きなのか、お金が一向に貯まらない。いよいよ貯金が尽き、これからどうやって生活をしていこうか悩んでいるところだった。


そんなとき突然銀行内に大きな声が響く。


「おい、強盗だ。金を出せ」


強盗は偶然近くにいた手品師の彼を捕まえた。


「いいかお前ら、騒いだらこいつの命はないと思え」


まさか自分が人質に選ばれるなんて思っていなかった手品師は動揺する。銀行内に静寂な空気が流れ、銀行員は淡々とお金をつめていく。


そんな中緊迫した状況でこの静寂を破ったのは人質の手品師だった。


「離せ!」


手品師は大きな声を出して突然暴れ出した。


どうせこのまま何もしなくても自分の今後はお先真っ暗だ。


それなら一か八か。


その一心で必死に抵抗する。


「そんなに死にてえのか!」


そう言って強盗が手品師に向かって撃鉄を引くと店内に銃声が鳴り響いた。


客は皆人質の彼が倒れ、血が流れるものと思い目を伏せ、無謀な彼を哀れんだ。


しかし、彼らが見たものは予想とは違っていた。


銃口から出てくる万国旗と唖然とした表情の強盗。


手品師は強盗の銃を手品用の万国旗の出てくる銃にすり替えたのである。


強盗の間の抜けた情景に客は笑いがこらえきれず、クスクスと声を潜めて笑い出す。


強盗は怒りよりも恥ずかしさに耐えきれず、舌打ちをして逃げるように銀行から出ていった。


手品師の男は照れ臭そうにに頭を掻きながら店内にいた人々の拍手と賞賛の声を浴びていた。


手品の技術を磨き続けてよかったな、と思っていた手品師の顔は笑顔で綻んでいた。


いい気分になって手品師の男は家に帰った。


「さて、手品用の銃とすり替えたこの本物の銃をどう使おうか。強盗に使おうか、秘密裏に売ってお金を稼ごうか。これで俺も貧乏生活脱出だ!」

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