犯人の要求

今は使われていない学校の校舎内で犯人は立てこもっていた。グラウンドには何人もの警察官が緊張感を持って待機している。


「おい、大富おおとみ! すでに辺りは包囲されているぞ! 観念して出てこい!」


警察の一人が立てこもり犯の大富に向けて呼びかける。その呼びかけに応じるように中から窓が開けられた。


「今は無理だ!」


大富が大声で返す。


「お前の目的はなんだ?」


「目的? ああ、なるほど。よく聞け、俺は今から革命をしようと思っている。そのためにキングを寄こせ! もう時間はない。今直ぐにだ!」


犯人の要求にグラウンドで待機している警察官たちはざわついた。


「革命って……そんな大規模なことをしようとしているやつだったんですね」


「ああ、思っていたよりもかなりまずいかもしれないな。個人で勝手にやってるのかと思っていたが、もしかしたら大きな組織に属しているのかもしれない。応援を呼んだ方がいいかもしれんぞ」


「キングを寄こせ! と言ってましたけど、どういうことでしょうか」


「おそらく我々にとってのキング、つまり署長と直接交渉をさせろ、ということだろうな」


「今直ぐって言ってましたけど、そんなにすぐに署長はここに来れないんじゃないでしょうか?」


「ああ、だから一度俺が直接犯人と接触して、交渉を試みる」


その眼は信念を持った強いものだった。


「わかりました。相手はどんなやつかわかりませんのでくれぐれも注意してください」


「ああ」


勇敢な警察官を皆が見送る。グラウンドには依然として緊迫した空気が流れていた。


☆☆☆☆☆☆☆


室内には大富含め、3人の男女がいた。


「ちょっと大富くん。大富豪っていうのは配られたカード内でやるもので、欲しいカードを人に持ってきてもらったらだめよ」


大富の仲間の矢霧やぎりという女性が注意をする。


「ていうかキング3枚持ってるんなら強い手札でしょうから、革命しない方が簡単に勝てると思いますよ」


人質としてここに連れてこられた伍鳶ごとびも口を挟む。


「キング以外4とか5とかしかないんだよ」


「手札ばらしちゃってますけどいいんですか?」


「とりあえず大富くんにはキングの3枚出しさえさせなければいいから、私と伍鳶さんの一騎打ちってことね」


「なんでだよ。俺が嘘ついてるかもしれないだろ」


「いや、ないわね。大富くん嘘つけないもの」


「そうですね。僕をここに連れてくるときも真正面から『今人質を探してるからお前ちょっとついて来い』って言われて、ここまで連れられてきましたし」


「そんなこと言われて着いて行く伍鳶さんも大概変な人だと思うわ」


言いながら、矢霧が最後の1枚のカードを場に出した。


「はい、これで私の勝ちね」


「いや、待ってください! これ8じゃないですか?」


伍鳶が矢霧の勝利に待ったをかける。


「だから何よ?」


「8切りで上がったら反則負けですよ」


「はぁ? そんなローカルルール適用するって聞いてないわよ?」


「8切り上がり禁止って全国共通じゃないんですか?」


「違うわよ。少なくともうちの地元でそんなルールなかったわ!」


「じゃあ今回は矢霧さんの勝ちでいいですよ」


伍鳶が折れたことで矢霧の勝利となった。


「しかし世の中にこんな面白い遊びがあるとは知らなかったぜ」


大富はまだ8枚ほど残っている手札をうちわのようにして、扇ぎながら言う。


「まさか大富おおとみたけしっていう名前の人が、大富豪の存在を知らなかったなんて思わなかったわ」


「今3人しかいないですけど、人増やして4人でやるともっと面白いと思いますよ」


3人で和やかに話をしているところに、警察官がやってきた。


「おい、大富。人質を解放してもらうための交渉に来たぞ!」


「あ、ちょうどいいところに。警察のおっさん、あんたもカード配るからそこ座ってくれ」

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