正義漢

「今日は楽しかったな」


帰りの車の運転中にちょうど踏切に引っかかり、つい先程まで久しぶりに会っていた友人との楽しい時間を思い出してしまう。


普段はハンドルを握ったら常に気を張っているのだが、先程まで楽しい時間を過ごしたせいで少し気が緩んでしまっているのかもしれない。


脳内には先程までの友人の弘明との会話が浮かんでいた……。


「それにしても俊一が警察官とは、そのままだな」


弘明に言われて「そうか?」と返す。


「お前高校時代からすげえ正義感強かったじゃん? バレンタインデーとかせっかく女の子にチョコ貰ったのに『学校にお菓子を持ってきたらダメだ』って言って突き返してたしな」


「ルールは守らないとダメだろ」


「堅物なのに柔道部のキャプテンやってて人望もあったしまさにおまわりさんタイプだと思うぜ」


「そう言われるのも悪い気はしないな」


そう言って俺たちが笑いあっていると、店員がやってくる。


「失礼します、アペリティフでございます」


店員が食前酒を置いて去っていく。


「あ、俺今日車だからアルコールは飲めないぞ?」


そう伝えると弘明が、


「大丈夫だって。車で来るって言ってたからノンアルコールコースにしておいたから」


「ノンアルコールでもあんまり良くはないだろ」


「まあまあ、久しぶりに旧友に会ったんだ。ちょっとくらい気緩めようぜ」


「そうか、じゃあちょっとだけいただこうかな」


そう言って運ばれてきた食前酒のワインを一気に飲み干すと、スッキリとした葡萄の香りが口の中を彩った。


「そういや、お前さ。もし自分の身内が悪いことしたのわかっても捕まえるのか?」


「当然だろ。悪いことは悪いことだ」


「そうか、やっぱりお前は正義感の塊だな」


弘明はケラケラと笑っていた。


しかしなんだか今日は運転に集中できないな。ちょっとコンビニで休憩してから運転しようか。


そう思い、コンビニに立ち寄るとちょうど弘明からSNSに連絡が入る。


メールを確認した俺は急いで職場の先輩に電話をかける。


「すいません、お疲れ様です」


「お疲れ。どうしたんだ?」


「ちょっと法律違反を見つけまして……」


「なんだよ。もう勤務時間外なんだからちょっとのことならあまり関わらない方が良いんじゃないか?」


「そう言うわけには行きません。とにかく僕には検挙できないんでちょっと来て下さい」


「はぁ……。わかったよ。そいつは大人しくしてるのか?」


「はい」


"悪い、俊一。俺が予約してたのノンアルコールコースじゃなかったからあの食前酒にアルコール入ってたみたいだわ……"

俊一は弘明からのメールを脳裏に浮かべた。


「法律違反をしたのは僕なんで」

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