第25話 山賊に捕まった水晶

 くすぐったいような、何か変な感じがする。それはもどかしく落ち着かない。どこか不快感がある。


 ハッと目を覚ました水晶はようやく異変に気付く。

 目の前は星空。両手は動かない。背中には硬い地面の感触。時折揺れる人の影。そして足元には人の気配と下半身の不快感。


「な、何してるの!?」


 水晶が首を起こして足元の異変を見ると、そこには先程の礼儀正しい方の男が腰を下ろし、水晶のスカートを捲り上げて中を覗き込み太ももをいやらしい指使いで一心不乱に撫で回している。

 状況を完全に理解する前に水晶は悲鳴を上げて男の顔を蹴飛ばす。


「痛っ! ああ、起きちまったよ。李慶りけい、押さえてろ」


 礼儀正しい男が傍らにいた粗暴な男、李慶に指示を出すと、李慶は舌打ちをしながら水晶の両脚を押さえた。その力は強く、もう脚を動かす事は出来なかった。


宗俊そうしゅん、お前絶対次は俺にやらせろよ? さもないと孟鳳玄もうほうげん様に先に女に手を出した事言いつけるからな」


「何だと李慶。誰のお陰で女を捕まえられたと思ってるんだ? ああ? お前みたいな短気な馬鹿じゃ、ただ同胞達を失って逃げ帰る事しか出来なかっただろうが! いいか? 孟鳳玄様は手土産に女さえ連れ帰ればどんな失態も許してくださる。俺とお前が助かるのは、俺がこの女を捕まえる策を講じたからだぞ? ありがたく思え」


「あのオレンジ髪の女が馬鹿だったから成功しただけだろ。たまたま山賊狩りの女を引き付けてくれたから俺達は目的の道を通れたし、女も捕まえられた。全部たまたまだ」


「ふん! そのたまたまも、俺が機転を効かせたからこそだろ! お前1人だったら孟鳳玄様のところには戻れなかったんだからな」


 宗俊が偉そうに言うと、李慶はまた舌打ちをしてそれからは黙り込んでしまった。


「なあ、水晶ちゃんよ。悪いがお前はこの後、峨山賊がざんぞくの副頭領のお1人、紅州こうしゅうを縄張りにする孟鳳玄様に引き渡す事になる。その前に君の身体で楽しませてもらうよ? なに、腟内なかには出さないさ。引き渡す前に妊娠でもされたら孟鳳玄様に俺達殺されちまうからな」


「嫌! 嫌です! やめてください!」


 水晶は宗俊の話を聞き一気に恐怖が込み上げてきて身体を捩らせるが、両脚を李慶に押さえられているので身動きが取れない。両腕も頭上で縄で縛られているようで動かせない。

 涙目になりながら辺りを見回す。しかし、そこにはいつもいるはずの潘紅玉の姿はなく、辺りに明かりを灯している焚き火があるだけで、あとは断崖絶壁とその先に深い森があるだけだ。


「潘さぁぁぁぁぁん!! 助けてぇぇ!!!」


 水晶は喉が裂けるくらいの大声で叫んだ。だがその声も虚しく闇に消えるだけで反応はない。


「大声出すんじゃねーよ。おい、李慶。この女が叫べないように布を噛ませろ。ったく、若い女の喘ぎ声が聴きたかったが仕方ねー」


 宗俊の命令で李慶は水晶の両脚から手を放し、自分の懐を探る。


「それにしてもお前可愛いなぁ水晶。肌もスベスベで張りがある。若い女ってのは堪らねーな。ちと若過ぎるが、毛も生えてねーガキってわけじゃないから孟鳳玄様も気に入るだろう」


 宗俊は水晶の顔を気色の悪い笑みを浮かべながら眺め、同時に太ももと股をいやらしい手つきで撫でる。下着は脱がされているようで直接宗俊の指が股に優しく触れる。

 その不快感に顔を歪めながらも水晶は李慶の様子を見る。李慶はまだ口に噛ます布をモタモタと探している。


「なぁ宗俊。手頃な布はねぇわ」


「だったらお前の服の袖でも引きちぎって使えばいいだろ、頭使え!」


「何だと? 何で俺の服なんだ? お前の服を破れよ宗俊」


「お前、俺に指図するのか!? あぁ!?」


 2人は突然言い争いを始めた。宗俊も水晶の股から手を放して立ち上がり、李慶と睨み合いお互いに罵声を浴びせ出す。


 今しかない。


 水晶は地面を転がり、不自由な両手を地面に突いて立ち上がると森とは反対側の崖に挟まれた道へと走り出した──が、走り出してすぐ脚がもつれて前に倒れた。


「うっ……!」


 足元を見ると、膝下まで脱がされた下着が脚を絡めた事に気付いた。穿き直そうにも両手は縛られて上手く使えない。


「逃げられると思ったのか?」


 目の前には宗俊がにやけ面で立っていた。

 そして這ってでも逃げようとする水晶のポニーテールを掴み、スカートを捲り上げ尻を露にさせた。


「お仕置が必要だな。逃げたらどうなるか」


 恐怖。水晶は涙を流しながら前へと進もうと地面を這う。しかし、髪を掴まれたままで前進出来ない。痛い……怖い……。水晶の心が掻き乱されているそんな時、さらに強い刺激が襲う。

 パシンという音と共に、水晶は痛みで地面に額を付けて沈黙する。尻を大きな手で叩かれた。水晶が沈黙しても尚、宗俊は水晶の尻をじかに何度も何度も引っぱたく。

 自然に漏れる呻き声。宗俊はそれを聴いて楽しそうにお仕置を続ける。

 ──何で私がこんな目に……

 そう思ったがそれは声には出ず、ただ呻き声が漏れるだけ。


「潘さん……助けて……」


 言いながら水晶は気付く。自分はいつも潘紅玉に頼りきりだと。情けない。潘紅玉は水晶を守るのが自分の仕事だからと言って水晶が非力でも何も言わない。迷惑そうな素振りすら見せない。


「潘さん……」


 泣きながらただ潘紅玉の名を呼ぶ。宗俊は笑いながら尻を叩き続けている。

 そんな時、水晶の頭上が急に明るく、温かくなった。


「うあっ!? 熱っ!? なっ!? 火!?」


 突然騒ぎ出した宗俊の方を見ると、髪や服に火が点いていて、それを必死に手で消そうともがいていた。


「李慶!! 水だ! 水を持って来い!!」


「水なんてねぇよ! くそっ!」


 李慶は慌てて服を脱ぎ、それを燃えている宗俊の頭や服に被せて火を消した。

 この火が何なのか、水晶はすぐに理解した。


 今が好機とばかりに地面を這う水晶。するとその先に2頭の馬が駆けて来るのが見えた。

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