田村隆一にささぐ
2021/11/03
田村隆一にささぐ
心なんか持つんじゃなかった
心さえ持たなければ
誹謗中傷に耐えることもできたのに
心なんか持つんじゃなかった
心さえなければ
いじめに耐えられたのに
心なんかいらなかった
心さえなければ
心なんてなければよかった
心なんてなければ
表舞台に立ち続けられたのに
子役なんてならなければよかった
子役にならなければ
誹謗中傷を浴びずに済んだのに
心なんて必要ない
心なんてなければ
こんなにつらい思いしなくて
済んだのに
ニンゲンになんて
生まれるんじゃなかった
ニンゲンに生まれなければ
いじめにもあわず
囲われることも
性的虐待にあうことも
存在を無視されることも
そして
自分を殺さずに済んだのに
芸能界になんか
入るんじゃなかった
芸能界に入らなければ
こんな思いせずに済んだのに
心なんていらなかった
心さえなければ
14歳で心折れることなく
私が一番若くて美しい時期を
無駄に消費することもなく
今は白髪も増え
35歳になり
14歳からの失われた21年間は永久に
かえらず
ただひたすら
彼らが
私に性的虐待をした彼らが
エリートたちをもしも見かけたら
私は確実に彼らを
誹謗中傷した相手を殺しかねない
殺陣なんか覚えるんじゃなかった
殺陣なんて覚えなければ
なめられることも
すべては無駄なこと
無駄な技術
こんなもの
芸なんか
演技なんか
学ぶんじゃなかった
人生において無駄がないなんて
嘘だ
有効活用もできず
ただただ刀はさびついていき
演技力なんていらない
天才だなんて言葉はいらない
演技上手いだなんて言葉はいらない
生きている間に一度だけでいいから
主役を演じたかった
舞台でも人生でもしょせん
私はモブ
アンサンブル
通りすがりのエキストラ
ただひたすら
自分より後にデビューした人間を
ゆびくわえて活躍を目にするだけ
心なんて持たなければよかった
心なんてなければ
横一列に我が物顔で日比谷を歩く
映画関係者
シャンテの狭い待合室を独占して談笑する関係者
そのすべてに激昂
怒りを覚えずに済んだのに
心さえなければ
痛むことさえなく
心さえなければ
あの時、あの時代に舞台なんか
繰り返し立っていなければ
東日本大震災でお客様をなくして
自分が死ねばよかったなんて
思い悩むこともなかったのに
心なんかいらない
心さえなければ
人を殺す書類に躊躇なく署名できるのに
心さえなければ
人を殺せと言う命令にそむくことなく
従順にしたがえたのに
心さえなければ
上司の操り人形でいられたのに
心さえなければ
人形でいられたのに
心さえなければ
君たちに奉仕できたのに
心なんてなければ
同性を好きになったことを
隠さなくてよかったのに
心なんてなければ
女性の先輩のこと
好きと言えたのに
心さえなければ
不登校をいじられても笑えたのに
心さえなければ
セクハラに耐えられたのに
心さえなければ
職場で繰り返し聞くつまらない話に耐えられたのに
心さえなければ
心なんか持つんじゃなかった
私に心さえなければ
みんな、不幸にならずに済んだのに
私に心さえなければ
人を殺そうとしなかったのに
私に心なんて必要なかったのに
なんでニンゲンの心
感情を持ってしまったのだろう
心さえなければ
心が死んでいれば
年休を消化せず
適応障害に悩むことなく
21年間、人生の半分以上を
ドブに捨てることなく
生きられたのに
心を持ってしまったから
心はもう壊れてしまったから
ああなかったと勘違いしていたのに
心なんてなければ
心を殺せば生きられたのに
心さえなければ居場所があったのに
心さえ消せば生きられたのに
もう後戻りしたくない
心なんていらない
だからこそ
心はあったほうがいい
ポエムの置き場所 荒川 麻衣 @arakawamai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます