いつまでも、一緒
いすみ 静江
第1話 鳩の涙
「
「いつも通りだが、
私は、彼に背広を着せる。
私が彼に執拗にすればする程、彼が満更でもない笑みを浮かべるのを知っている。
何だか憎らしくて突っ込みを入れたくなった。
「私はね、男性が朝出て行かれてから、ユニットバスの便座が上がっているのが嫌いなの」
「くだらないこと考えていないで、お局様は研究所に向かったらどうなのかな」
まだ二十七歳よと主張したかったけれども、現実をカレンダーで突き付けられて愕然とした。
「おお、今日は私の水遣り当番でした! うっかりポンの助で、水遣りのお局免除ないかな。午後は私がするからと頼むか」
「適当だな、美音子さん。まだ、間に合うから、研究所まで行って来なさいって」
「一つ年下のくせに――」
ぶすくれる私に対して、ネクタイを結んだ彼は準備万端だ。
それから、彼は一つ加えた。
「今日は、デートできないからな」
「ふふふ。
正確には、デートできないではなく、ホテルに泊まれないか私の家に来られないのだろう。
私達は、そんな関係。
赤い糸がいつも以上に強い風にはためいている。
突然だが、私は山鳩の声が近いとベランダから覗いた。
「忍び合う、恋の分かれ目、今朝と啼く、山鳩止まる、ベランダの外」
「どうしたー? 三十一文字に憑りつかれたか? それよりも近付くと危ないから、部屋に入るといいよ」
彼の背広をきゅっと掴む。
私のことを嫌ってはいないのがよく分かる。
見た目がイマイチの私とも普通にお付き合いをしてくれる。
彼は、優しいし、それは虫が付く程のイケメンだし、私の萌え属性眼鏡くんだし。
他には、意外なゲームの話とかで盛り上がったりできるしね。
「それじゃあ、時間だから」
「気を付けていってらっしゃいね。忘れ物はない?」
俺のお袋かと小突かれてしまった。
さて、出勤にはまだ早い。
先程までの彼のあたたかさを忘れられない。
「ああ、忍び合っているとね。結局の所、私は一生お遊び人形で終わってしまう。形にも残らないと思うと、何だか悔しくて」
私は、最高の歪んだ真珠であるバロック様式の涙を一つ。
そして、二つ、三つと頬を伝わらせる。
次第に、雨の如く降らせた。
「私は。いつまでも山鳩のように泣かないわ。我慢して、我慢して、本命女の新井さんより魅力的になってみせるから!」
涙が水色ではなくて、土砂混じりのようだ。
「部屋着のルーズなパンツが、まるで噴水にいるようだわ」
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