第30話
「侯爵様?どうせ私は女性としての魅力はありませんよ。ですが、そうはっきり言われると、いくら私だって傷つきますわ。」
怒りが抑えきれなくて侯爵に向かってそう言い放ってしまった。
沸点が低くてごめんなさい。ロザリーには侯爵を慰めたいとか言っておきながら侯爵に向かって怒りを感じてしまって申し訳ないとは思っている。思ってはいるけれども。
だけれど、まさか婚約者から女性としての魅力を感じないと言われてしまっては、どうしても怒りが込み上げてきてしまって仕方がない。
「あ、アンジェリカお嬢様っ!ご、誤解です。誤解でございますっ。ほ、ほら。旦那様もなんとか言ってあげてください。おはやくっ!」
ヒースクリフさんが私が怒る様子を見て慌てて否定してくる。
誤解とはいったいどういうことだろうか。
「あ、ああ。アンジェリカには女性としての魅力は感じないのでとても助かっている。だからこうして話をすることができているのだ。私はアンジェリカに女性としての魅力を感じなくてよかったと心底思っているよ。」
侯爵は焦ってはいたが、どこかホッとしたような表情を浮かべて私を慰めるようにそう言ってきた。だから、女性として魅力を感じないというのは慰めにもなっていないのだけど。
「だ、旦那様っ!いくら、アンジェリカお嬢様に女性としての強い魅力を感じなくてホッとしていたとしても、そのお言葉は撤回なされた方がよろしいかと思います。女性に向かってあなたには魅力を感じられないなどと言われても怒ってしまわれるだけでございますっ。」
「そ、そうか?私はアンジェリカに魅力を感じなくて心底ホッとしているのだが……。」
なんだか、ヒースクリフさんも侯爵も随分と私に対して失礼ではないだろうか。
「侯爵様?女性としての魅力を感じないと言われて怒りを感じても、嬉しく思う女性などおりませんわ。」
私はピクピクと動くこめかみに気づかないふりをして、口元だけで笑みをかたどる。
「そ、そうであろうか。私としてはアンジェリカに女性としての魅力を感じなくて、これでアンジェリカを襲わなくてすむと安堵しておったのだが……。」
「侯爵様?だ、か、ら、何度も何度も何度も私に魅力を感じないと言わなくてよろしいですわっ!私、不愉快ですっ!失礼いたしますっ!!」
何度も何度も女性としての魅力を感じないと言われていい加減頭に来てしまった私は執務室のドアをバンッと開けるとそのまま部屋を出て行った。後ろで侯爵とヒースクリフさんが私を引き留めているような声が聞こえたがそこは無視することに決めた。
私はローゼリア嬢とロザリーがいる部屋に入ると二人に向かって声をかけた。
「ごめんなさい。私、すぐに侯爵家を出て行かなければならなくなってしまったの。ローゼリア嬢。みんながいるところまで一緒に行きましょう。その後、私たちは侯爵家を出て行くわ。」
「アンジェリカお嬢様っ!やはり侯爵様に!!」
「違うわ。ロザリーが心配しているようなことは全くこれっぽちもないわ。だって、侯爵様は私にこう言ったのよ。アンジェリカには女性としての魅力を感じない。って。」
私は怒りを隠しもせず、ロザリーとローゼリアに告げる。
すると、ロザリーもローゼリアもポカンとした表情を浮かべた。
「ふっ……。ふふふっ……。うふふふふっ……。」
「ま、まあ。侯爵様ったらアンジェリカお嬢様に向かってなんてことを……。」
しばらくして正気に戻ったのか、ローゼリア嬢は笑い出してしまった。それとは反対にロザリーは私が魅力がないと言われたことにショックを受けているようだ。
っていうか、なんでローゼリア嬢は笑い出すんだろうか。
「侯爵様ったら面白いわ。それを面と向かってアンジェリカに言ってしまうなんて。うふふっ。これはとても面白いわ。アンジェリカ。それではまだ侯爵家の馬車が用意されていないでしょうから、私が送っていくわ。夜道は危険ですものね。」
先ほどまで、侯爵に襲われて震えていたローゼリア嬢はどこに行ったのか、突然耽美に笑い出した。そうして侯爵家の馬車に代って家まで送り届けてくれるという。
「でも、それではローゼリア嬢はどうするの?私たちを送っていった後が危ないわ。」
「大丈夫よ。私はアンジェリカの家に泊めてもらうわ。外泊くらいしたって怒られないわよ。外泊する理由を作ったのは侯爵様ですもの。」
「ローゼリア様。ありがとうございます。お気持ちは大変嬉しいのですが、女性3人だけでは夜道はいささか危険かと思います。」
ローゼリア嬢の提案に、疑問の声を上げるロザリー。確かにその通りだ。2人から3人に増えたといえ、全員女性だ。夜道を歩くのは大変危ないと思われる。
まあ、女性としての魅力がない私を襲うような人がいるとは思わないけれども。
ただ、侯爵家から出てきたということは侯爵家ゆかりの人物であることはわかってしまうので、金銭目的で誘拐されるというのはあるかもしれないが。
「大丈夫よ。魔法で飛んでいけば安全だわ。王都に私以外に空を飛べる人はいないのだから、誰にも邪魔はされなくってよ。それに目くらましの術もかけるし馬車で帰るよりも安全よ。」
そう言ってローゼリア嬢はにっこりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます