生徒手帳+カスの嘘

 学校は、卒業した生徒の生徒手帳を10年間保管することが義務付けられている。


「保管の方法は決まっているんですか?」

 僕は担任の先生に聞いた。まだ20代で、今年初めて3年生を受け持った先生だったけど、僕達にとってはとてもよい先生だった。


「決まってないはずだけど、どうしてそんなことを聞くの?」

「それなら卒業式の日に、僕らみんなの生徒手帳を埋めて、10年後に掘りに来たいです!」


 それは面白いねと先生は言った。

 クラスメイト達にも、この話をした。

 そして、僕ら島村高校三年A組は、満場一致で、生徒手帳のタイムカプセルを作ることにした。


 そして今日が、その10年目の日だった。

 なんとか当時の同級生たちの連絡先を調べ、分かる限り連絡をしたけれど、集まれたのは10人ちょっとだった。


「30人くらいいたのに、これだけか」

「みんな忙しいだろうからね」


 26歳になった僕らは、既にそれぞれの道を歩き始めていた。都合の合う人ばかりではなかったのだ。先生ですら、既に別の高校へ移籍してしまっていた。


 目印にしていた大きな木の根元を掘り始める。

 やがて金属製の箱が出てきた。

 それを開くと、懐かしい手帳が目に留まる。


「おい見ろよ、これお前だろ。若いなぁ!」

「君だって、この頃は眼鏡かけてて髪も黒いじゃないか」


 僕らは手帳の写真を見て、昔を懐かしんだ。

 ここに来れていない人たちの手帳も、中身を確かめた。

 こんな子いたいた、とか、俺こいつ好きだったんだよ、とか。

 僕らは昔話に花を咲かせた。


 ところが、最後に出てきた手帳に、僕らは首を傾げた。

 全く見覚えのない顔だったからだ。


「全員が忘れているってこと?」

「名前は見たことあるような気がするけど……」

「誰だ、この女……?」


 冷たい風が吹いた気がした。僕らはだんだん、寒気がしてくる。

 誰も覚えていない、謎の女生徒。

 こいつは、いったい……。


「あー、ごめんごめん、遅れちゃった!」


 そのとき、一人の陽気な女性の声がした。


「先生!」


 当時26歳、現在36歳になった僕らの担任の先生だ。

 僕らは助け船が来た、とばかりに先生に飛び付いた。


「こ、こ、この生徒、覚えてますか!?」

「あらやだ、懐かしい!」


 先生は恥ずかしそうに笑った。


「これ、私の生徒手帳よ。あの日、10年経って返却されてたから、一緒に埋めたのよ」

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