異世界転生! 幸運の、三毛猫オス獣人になって、勇者と聖女と旅するなんて聞いてない!!
タカナシ
第1話「三毛猫に転生なんて聞いてないっ!!」
「うそ……だろ……」
苦竹は何があったのかと近くの警察に確認すると、この会社は数々の違法行為、果ては反社会的勢力との繋がりまであたとのことだった。
警察はそこに勤める社員として内情を聞くのにこれ幸いと苦竹を連行していく。
何も知らなかった苦竹は会社での仕事を全て話すことで、数時間後にようやく解放された。
もともとあった目の下のクマはげっそりとした顔のせいで余計に黒々と見える。
ぽつ、ぽつ、ザァーーッ!!
「うおっ!? 雨っ?」
急に降り出した雨の中、放り出されたのだが、傘を求め寄るコンビニ、寄るコンビニ全て売り切れになっている。
ようやく傘があったと思い、レジまで行くと、財布を落としていることに気が付き、そのまま傘を戻し雨の街へと戻っていく。
「うそだろ。仕事もなくなり、傘もないし財布まで……。思えば、俺は昔っからそうだ。楽しみにしていた旅行では必ず雨が降るし、逆に大嫌いな運動会とかマラソン大会は確実に晴れる。一年に一度は財布が無くなるし、家が火事になること3回、車に轢かれた回数なんて大小あわせれば数えきれないくらいだし」
とぼとぼと歩いていると濡れた路面に足を滑らせ、無様にバシャッと水たまりにダイブする。
「くそっ。ついてない」
びしょびしょのスーツを明日までになんとかしないとと思ったが、すでに着ていく会社はなくなったのだと自嘲した。
「これで、まだ味わってない不幸なんて、死ぬくらいのもんじゃな――」
その瞬間、苦竹は浮遊感に襲われた。
地面があるはずの場所に、地面がない、そんな不意の浮遊感。
「なんで、マンホールが開いてるんだよっ!」
苦竹はそのまま落下し、そこで意識が途絶えた。
※
「ハッ!! ここは……?」
目を覚ますとそこは真っ暗な世界だった。
(俺は死んだのか? それとも、ここは病院?)
「おおっ! 良くやった! オレたちの子だっ!」
いきなり強い力で抱きかかえられる。
(な、なんだ。なんだっ!?)
次に野太い力強い声が聞こえてくる。
「ほぉら、父さんだぞぉ!」
「あなた、まだ目が見えないんですから」
鈴のような声が父さんという人物をたしなめる。
「おおっ、そうだったそうだった。ついつい。すまんな。しっかし、お前と同じミケ色かぁ、可愛いなぁ! こんな娘が持ててオレは幸せものだぁ」
「あなた、実はその子、男の子なの」
「へっ!?」
父さんは素っ頓狂な声をあげて、凍り付く。
「ま、マジ?」
「はい。マジです」
「ミケ色で男って、あの伝説に伝わる幸運の獣人じゃないかっ!!」
(幸運の獣人?)
目は見えないが、だんだんと状況が呑み込めてくる。
(どうやら、これは小説やマンガで良く見る、異世界転生。そして、俺は獣人に転生したようだ。さらにミケ色が幸運というならば、前世の知識と同じなら、猫の獣人である可能性が高い)
そう推察してから、苦竹は苦笑いを浮かべた。前世でさんざん不幸だった自分が、転生した程度で幸運になれるとは思えなかったからだ。
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