閑話③ 高校のクラスメイトの話

 杉浦大地(すぎうらだいち)は、退屈していた。親がいわゆる教育熱心であり、自分たちの一人息子を自慢したかったのだろう。確かに、自分はあまり勉強しなくても成績は良かったし、運動もそこそこだった気がしていた。


 適当に生きるのは楽だった。両親が私立の名門校K学園を進めてきたときは驚いた。杉浦の成績だと公立のA高校が妥当だと担任には言われていた。杉浦もそれでいいと思っていた。


「だいちは私たちに似なくてよかったわ。自慢の息子よ。だから、このまま私たちの自慢の息子でいなさいね。」


 理想のために息子を有名私立高校に入れたいという気持ちは、杉浦にとってわからないでもなかった。ただし、それを肯定することはない。自分の進路は自分で決めたかった。たとえ、行きたい高校はなくても、自分がこれでいいやと妥協する高校ならばそこでいいと考えていた。それなのに、よりにもよって私立のK学園。しかも男子校を薦められた時は、カチンときた。



「なんでそこに行く必要があるんだよ。A校も進学校らしいぜ。高校よりも大学の方が大事なんだろう。わざわざK学園に行く意味あるのかよ。」


「だって、K学園は男子校でしょう。女子がいない方が悪い女がつかなくて、勉強に集中できると思うわ。」


「そうだ。それにK学園は日本トップクラスの大学進学率を誇っている。通って損はないぞ。」


「でも、金はあるのかよ。知ってるぞ。オレの家は大して裕福じゃないことくらい。」


 父親は市役所の職員だ。しかも高卒であり、母親は専業主婦。いくら公務員でも給料が多いとは言えない世の中だ。一人っ子とは言え、ぎりぎりか足りないくらいだろう。


「それは、母さんも働くから大丈夫。だいちが心配することはない。」


 その後、何度も反対したが、結局反対は押し切れずにK学園を受験して、無事に合格して通うことになった。


「すげえな。K学園なんて。まあ、男子校は嫌だけど。」

「お前って、本当に頭がよかったんだ。」


 いろいろと同級生には言われた。男子校とか最悪だ。杉浦は4月から憂鬱な高校生活が幕を開けるのだと思うと、気分が下がった。しかし、面白い出会いもあった。




 K学園の入試の当日、思いがけない人物と出会った。それは、隣の中学の有名な双子の兄だった。その双子は、とても仲が良いことで有名だった。たまたま、同じ部活で、市内大会や練習試合で会う機会もあったので、顔を覚えていた。


「まさか、兄しか受験していないとは驚きだった。」


 双子はてっきり、高校も同じにして、一緒に通うものだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。


「あいらにも、あいつらの事情ってやつがあるのかもな。もしかしたら、オレと同じで本当はK学園に通いたくなかったという線も考えられる。」


 K学園に通うこと自体は憂鬱でしかないが、双子の片割れだけK学園に通うということに興味がわいてきた。少しだけ高校生活が楽しみになった杉浦だった。


 そもそも、K学園を受験したのは杉浦の中学では杉浦一人だけだった。高校までつるみたい親しい友人はいなかったので、一人でも構わなかったが、やはり少しの寂しさはあったのだ。それが、友達とまではいかないが、知り合いが同じ高校に通うかもしれないのだ。





 入学式の日、教室の廊下に貼られたクラスの名簿を見て、双子の兄と同じクラスだったことに驚いた。合格しているかなとは思っていたが、まさか同じクラスになるとは思ってもいなかった。


 杉浦はことあるごとにヒナタにちょっかいを仕掛けることにした。無表情だが、無反応というわけでもなく、それが面白くてついついはまってしまった。


 ちょっかいついでに水藤ヒナタを観察しているうちに、興味深い事実がわかった。おそらく、双子の兄のヒナタと弟のミツキは交代で高校に通っている。証拠はないが、確信があった。


 杉浦は昔から他人が何を考えているのか予想するのが得意だった。それを踏まえて行動して、相手を自分の思い通りにしていたこともある。しかし、それが両親の前ではうまくいかないのが悔しかった。それでも、K学園で退屈しない出会いがあった。


 最初に気付いたのは、話す声のトーンだった。ヒナタの方が若干だが、明るかった。一人称の僕もしっくり来ていた。普段使い慣れているのだろう。対して、ミツキが学校に来ているときは、若干だが、暗い感じだ。そして、オレという一人称がしっくりくる話し方をする。


 どうしてわざわざ一人を装って、二人で交代で学校に通っているのか興味がわくが、いまだに聞けずにいた。誰しも踏み入れてほしくない話題くらいある。


 いつかお前たちの行動はばれているぞと伝えてやろうと思っているが、まだ話すタイミングではないと自分に言い聞かせていたが、とうとう先日、ミツキに交代がばれているぞと言ってしまった。別にばらしたり、脅したりするつもりもないが、面白いくらい動揺していた。




 さて、これからどうやって双子と接していったら、面白いだろう。杉浦はそんなことを考えながら、男だらけで癒しのない、勉強漬けの高校生活を送っていた。

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