20祖父の容体

 八月も終わり、新学期が始まった。双子の母親は相変わらず、双子を自分の夫と勘違いしていた。しかし、双子の努力の結果、夫が中学生の双子に分裂したということで納得してもらった。そのおかげで、ヒナタとミツキは母親から平等な扱いを受けることになった。


 学校では、中学最後の行事が目白押しで、双子は忙しい毎日を過ごしていた。体育祭や合唱祭、文化祭など、クラスが団結して行うものがたくさんあり、双子はそれぞれのクラスで、それなりの協力をしていた。


 母親は、それらの行事を見に来なかった。共働きが多い世の中で、保護者が見に来ない親も多かったが、それでも、大半の保護者が来ている中で、来ていないのは多少目立っていた。





 体育祭や合唱祭、文化祭などの学校行事が終了した、十二月のはじめ。いよいよ受験が年明けに近づいてきて、クラスの雰囲気がピリピリしだしたころだった。一本の電話が双子のもとにかかってきた。夏休みに祖父が買い与えてくれた、携帯電話に着信があった。


「もしもし。ヒナタですけど。」


「ヒナタ君ですか。夜遅くにすいません。下屋敷家の執事ですが、あなたのおじいさんのことでご連絡が……。」


 電話をかけてきたのは、下屋敷家の執事だった。ヒナタは今、自分の部屋にいた。母親のせいで殺風景な部屋になっているが、そのままにされていた。部屋にはミツキもいて、一緒に受験勉強をしている最中だった。


「執事さんがこんな夜中に連絡とは……。」


 嫌な予感がした。ミツキも電話の相手がわかり、同じように思ったのだろう。急いで部屋の外に出て、母親の姿がないか確認していた。


「前にも言いましたが、あなたたちのおじいさんは、心臓の持病を患っていました。医者からは、まだあと数年は持つだろうと言われていましたが、最近、病状が急激に進行しました。新たに医者からは、後数カ月が関の山だと言われました。おそらく、あなたたちのお父様が亡くなったことが原因でしょう。」


 まずいことになっている。ヒナタはどうしようかと頭を悩ませる。ちらとミツキを見ると、不安そうにヒナタを見つめ返してくる。


「それで、僕たちにどうしろと。お見舞いに行った方がいいということでしょうか。」


 ヒナタは、自分でもわかるほどそっけない声を出してしまった。そう、いまさら自分たちに何ができるというのだろうか。会えばきっと、孫のヒナタとミツキとして見てもらえず、父親のふりをしなければならない。


「お見舞いって、じいさんの具合でも悪いのか。」


 ミツキが口をはさんでくる。ヒナタは考えるのを放棄して、ミツキに電話を渡す。ミツキならなんと返事をするだろう。きっと自分と同じだとヒナタは思っていた。


 ミツキが電話を受け取り、執事がミツキにも祖父の容態を説明をしていた。ふむふむと頷きながら話を聞いていたミツキの顔が曇りだす。


「まあ、見舞いくらい行ってやってもいいが、条件がある。遺産のことだ。それと……。」





「トントン。」


 突然、前触れもなく部屋をノックされた。部屋をノックするのは一人しかいない。とっさにミツキは通話をやめ、携帯電話の電源をオフにし、ポケットにしまい込む。しまい込んだと同時にドアが開いた。

 母親が片手にお盆をもって中に入ってきた。お盆の上にはカップラーメンとマグカップが二個ずつ乗っていた。


「夜食でもどうかと思ったのだけど。」


「ドアをノックするのはいいけど、僕たちが返事をしてから入ってきてよね。そうしないと、ノックの意味がないよ。」


「そうそう、俺たちも年ごろの男子だから、何かと母さんに見られたくないこともあるからさ。」


「ふうん。わかったわ。とりあえず、これでも食べてもう寝なさいね。」


 母親は、本当に夜食だけを持ってくるために双子の部屋に入ってきたようで、お盆の中身を双子に渡すと、何も聞かずに部屋から出ていった。

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