6三者面談~ミツキ~
ヒナタの面談が終わり、次は弟のミツキの面談である。ミツキと担任も、母親が来るまでの間、雑談で時間をつぶしていた。
「ミツキ君はA高校に行きたいみたいね。ミツキ君の成績なら問題ないわ。親御さんはなんて言っているのかしら。」
「母は……。」
廊下から足音が聞こえる。ヒナタの面談が終わったようだ。
「水藤ミツキの母です。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ミツキと担任、母親の面談が始まった。
「ミツキ君はA高校の進学を希望しています。今の成績なら合格圏に入っているので特に問題はありません。」
「ミツキは高校には行かせないつもりです。うちは夫が亡くなって、生活が厳しい状態です。息子二人を高校に進学させるだけの費用を出すことは到底できません。ですから、ミツキには中学卒業後は私と一緒に働いてもらいます。」
これには担任だけでなく、ミツキも驚いた。自分が高校に行かないという話をミツキは今、初めて聞いた。家での会話にそんな話は一度も出てきていない。ミツキは普通に高校に進学するつもりでいた。兄のヒナタと一緒の高校に行くことに疑問を感じていなかった。息子二人を高校に進学させるだけの費用がないといっているが、ではヒナタはどうするのだろうか。
「そうはいっても、今の世の中、高校には行っておいた方が就職先にも困らないと思いますが。それにミツキ君ほど優秀な成績なら高校に行って、その後の大学進学も視野に入れた方が本人のため。奨学金を借りるという手段もありますし、一度考え直してみた方が……。」
「あなたもそんなことをいうのですか。この中学には母親に文句を言う教師しかいないのですか。いったいどんな指導を受けているのやら、あきれてものも言えません。ただ、これだけは言っておきます。ミツキはまだ中学生です。進路を決めるのは親の役目です。母親が決めて何が悪いのですか。」
「ミツキ君だって、もう中学生です。自分のことは自分で決めることができます。それに彼も一人の人間です。母親の思い通りに動かせる駒ではありませんよ。」
ここでも担任と母親の言い争いが始まる。ミツキは、自分を高校に行かせないといった母親の言葉にショックを受けて、言い争いを止めることができない。
「俺が高校に行けないとか、マジかよ。」
「ほら、ミツキ君もあなたの発言に戸惑っているようですよ。まだ受験まで時間がありますから、もう一度、家でしっかり今後の進路を話し合ってください。お互いが納得のいくまで話し合って決めてくださいね。」
「これは決定事項です。それ以外の選択肢はありえません。どうしても話し合えっていうのなら、教育委員会に訴えますよ。」
「何を訴えるというのですか。私はミツキ君の意見も聞きなさいと言っているだけですよ。あなたの独りよがりな意見を押し付けないようにと注意しているだけ。訴えられる筋合いはありません。」
このままでは何時間でも言い争いが続くだろう。そう判断したミツキは正気に戻り、この場を収めることにした。
「先生、母さんは父が亡くなって気が動転しているんです。もう一度、家で話し合いますから、今日はこの辺で話は終わりにしませんか。」
「そうは言っても、あなたのお母さんは、ミツキ君を自分の思い通りにできる駒と勘違いしているのよ。悔しくないの。」
「それはまた別の問題です。このまま話を続けてもらちがあきません。母にはよく言い聞かせておきますから。」
無理やり担任を説得して、ミツキの面談も終了した。ミツキもまた、ヒナタと同じように憂鬱な気分になった。
三者面談が終わり、ミツキは荷物を持って教室を出た。すると、廊下でヒナタが待っていた。
「面談はどうだった、ミツキ。」
「そっちこそ、どうだったんだよ、ヒナタ。」
「僕はK学園に行かされるようだ。」
「俺は高校に行かないようだ。」
双子は同時に答えた。そして、それぞれの答えに驚きを隠せなかった。自分が行きたい高校とは異なっているし、ミツキに至っては高校に行かないといっているのだ。驚くのも無理はない。
「ミツキ、それは本当か。お前が高校に行かないなんて言ったのか。」
「言うわけないだろう。母さんが言ったに決まってる。息子二人を高校に行かせるだけの費用がないんだとよ。」
「だとしたら、僕も高校に行かせないと言うと思うが、俺はK学園を受験することを強要された。あそこは私立で費用が高いことで有名だ。矛盾していると思わないか。」
双子は母親の言ったことを思い出し、考える。そして、ヒナタはひとつの可能性に気が付く。
「もしかして、僕たちの一人だけを高校に行かせて、一人は働かせて、費用を稼がせるつもりかもしれない。」
「ヒナタの言う通りだ。母さんは、面談で俺に卒業後は働けと言っていた。母さんの考えを変えることは可能だと思うか。」
「このままだと無理そうだな。とりあえず、今日家に帰ってからの話し合いが大事なことは確かだ。いつも以上に気合を入れなければ、負けてしまう。」
「二人で楽しそうな話で盛り上がっているけど、そろそろ家に帰りましょう。」
双子は、自分の母親がその場に現れたことに気付かなった。母親は、ミツキと教室を出た後、お手洗いに行くと言っていた気がする、いつの間に戻ってきたのだろうか。小声で話していたので、母親に内容までは聞かれていなかったらしい。
「別に。クラスで面白い奴がいたという話をしていただけだよ。」
「そうそう。どっちのクラスにより面白い人がいるのか話していただけだ。」
「そう。」
母親はなんだか納得していないような表情を浮かべていたが、特に会話の内容にそれ以上突っ込むことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます