顧問登場で、ブヒを抑える姫

「あなたたち、部を立ち上げたって聞いていたけど、イチャついているだけなの!?」


 うわ、コイツはまずいヤツに当たった。同じクラスの文芸部である。しかもクラスでもかなりの堅物じゃないか。


「もし騒ぐのが目的なら、先生に言って部を解消してもらうから!」

「あー違う違う。ちょっと機材のトラブルがあって」

「抱き合うのがトラブルなワケ!?」


 あーダメだ。言っても聞かない。


「何を騒いでいるんだ?」


 ガリッガリにやせた男の先生が、ASMR部の部屋に入ってきた。


「あっ、多聞たもんちゃん、ちょうどいいところに!」

「学校では先生って呼びなさいって、言っているだろっ」

「お姉ちゃんみたいに『ヒトちゃん』って呼ばないだけ、マシと思ってよっ」


 現代文の、多聞 裕仁ひろひと先生である。多聞先生はどうも、音更さんと知り合いみたいだけど。


「なんで多聞先生がココに?」

「我が部の顧問だよ。多聞先生は」


 だよなぁ。文芸部の方は、女性の先生だったはずだから。


「多聞ちゃんって、いうのは?」


 えらく馴れ馴れしいが。


「お姉ちゃんのお婿さんなんだよね」

「婿養子だけどな」


 そういえば、卒業直後の生徒に手を出した先生がいると聞いたことがある。多聞先生だったのか。


「それに、里沙ちゃんは、ちゃんと、正式な、婚約者だからな」

「はいはいわかってますよ。多聞ちゃん」

「だからー。で、何があった」


 音更さんが切り出そうとしたら、文芸部の方が割って入ってきた。俺たちが部活と称して乳繰り合っていると、悪評を流す。


「ふーん、で音更の方からは、何かあるか?」


 音更さんと俺は、事実だけ話す。


「廃部を要求します!」と、文芸部は息巻く。

「却下だ」

「はあ!? 先生、身内だから味方するんですか?」

「生徒一人の一存で、部活を廃止になんてできるかっての」


 おそらく多聞先生も、こいつが問題児だとわかっている。音更さんも大概だが。

 しばらくして、文芸部の顧問もやってきた。事情を説明し直す。



「バアン!」と、文芸部顧問は、ASMR研の窓を閉めた。「ピシャン」ではなく、「バアン!」と。



 さすがに音更さんは、こういう音には顔をしかめていた。 


「防音に配慮なさい。ASMRも文芸も、集中力が大切です。気を散らす行為は慎むように」

「はあい。ごめんなさぁい」


 直後、文芸部員にも顧問は厳しく接する。


「あなたも、先入観だけで二人をカップルだと決めつけないように」

「でも先生!」


「文芸に集中しなさい。周りを気にしすぎなのは、注意力が切れている証拠です。文芸の前では、雑念なんてどうでもいいはずです」


 厳しい言葉を投げかけられ、文芸部員は縮み上がった。


「私は隣に住むアベックが夜の営みをしている間、応募作品を一晩で書き上げましたよ。真横で男女がセックスしていても小説を書き上げる、図太さと豪胆さを身につけなさい」


「ええ……」と、文芸部員。


 俺も「ええ……」ってなるわ、先生……。

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