大きな力

「みんなの言う事が間違っているというのか!?」

 らいと君の言葉に、あかりちゃんはあいまいにうなずきました。

「太陽のせいだけじゃないわ。だって、太陽がわざわざ月の形を変える理由なんてあると思う?」

「たしかに理由はないと思うけど……」

 らいと君はううんううんと悩みました。

 あかりちゃんは両手を広げました。

「もっと大きな力が動いているの。太陽に月の形を変えさせる何かが」

「何かとは?」

「神様よ」

 あかりちゃんは手のひらを天に向けます。満天の星空が、見つめ返すようです。

「神様が太陽を動かして、月の形を変えさせているのよ」

「どうして神様がそんな事をするのだろう」

「決まっているでしょう」

 あかりちゃんは両手を背中に回して、いたずらっぽい笑みを浮かべます。

「私のお願いを聞いてくれたの。すごいでしょ」

 らいと君は両目を見開いて、口をパクパクさせました。

 驚きのあまり、言葉を失いました。

 あかりちゃんは話を続けます。

「私は、とても大きな力を持ったの。なんだって叶えられるのよ。だから、ある事をお願いしたの」

「……何を言っているの?」

「ひーみーつ! 神様から言われているの。らいと君には思い出させちゃいけないって」

 あかりちゃんは悲しそうにうつむきます。

 らいと君は心配になります。あかりちゃんが泣いちゃわないかと。

「僕はあかりちゃんが何を言っているの分からない。大事な事を忘れているのなら、謝るよ。もう二度と忘れないよ」

 らいと君は必死になって、あかりちゃんに声を掛けます。

「……ありがとう」

 あかりちゃんは顔を上げました。

 笑顔を浮かべています。

 しかし、涙をこぼしています。

「でも、明日にはもう、らいと君は私を忘れている。だって、それが神様との約束だから。思い出しちゃうと、らいと君が不幸になっちゃうから」

「何を言っているんだ!? 僕は絶対にあかりちゃんを忘れない……!」

 言っている途中で、らいと君は気づきました。

 あかりちゃんの頬に伸ばした両手が、透けている事に。

 両手だけではありません。

 足元からどんどん透けています。

 あかりちゃんはアハハと笑いました。

 涙を流しながら笑いました。

「ありがとう。らいと君は分からなくなると思うけど、私は絶対に忘れないよ」

「あかりちゃん、僕は……!」

 忘れない。

 そんな言葉だけを残して、らいと君は消えてしまいました。

「あーあ、ひとりぼっちか。らいと君、ちゃんと自分の足で歩くんだよ」

 あかりちゃんは石橋に両手を置いて、星空を見上げます。

「神様、らいと君だけは幸せにしてね」

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