キミからもらったもの
椿紅 颯
第1話 変わる日常、変わらない日常
高校二年生の夏休みが終わり、二カ月が経とうとしていた。
気温もすっかり低くなっていて、体を温める衣類があると心強い季節だ。日が昇っている時間も短く、湿度も下がり空気も乾燥している。
テレビでは一面真っ赤に染まった紅葉が映し出されていて、まるで山火事になっているように見える。
そんな代わり映えの無い毎日を送っていた高校生活であったが、変化が訪れた。
俺には幼稚園から一緒の幼馴染が居る。控えめな性格で、いつも俺の後ろに隠れて自分からは発言や行動が出来ない程だ。その幼馴染の
明るく前向きな性格になる事が出来て、本当なら喜んで良いことなのだが、心のどこかでモヤモヤする気持ちを抱えるようになっていた。
今まで見た事の無い知らない笑顔や仕草、自分でも気づかないうちに目で追うようになっていた。
いつものようにクラスメイトの
「なあ、ゆう。最近幼馴染のさやちゃん明るくなって、人気者になってるな」
「ああ、そうだな」
「ああ、そうだなってお前なんとも思わないわけ?最近のさやちゃん人気って言うのは女子だけじゃなくて、男子からもなんだぞ。噂ではもう誰かから告白されたとかって聞いたぞ」
「……え、そうなの!?」
真友の口から出た言葉に驚きを隠せず大声を出してしまった。その反応はクラス中の注目を集めてしまった。苦笑いをしながら「ごめんごめん」と言いながら着席をしたら、何事もなかったかのようにクラスに賑やかさが戻った。
「おいおい、そんなに驚くなよ。こっちまでビックリするだろ。んで、どうなんだよ、お前さやちゃん好きなんじゃないのかよ。他のやつに取られたっていいのか?」
「……良いわけないだろ」
正直図星を突かれていると思う。
今まで注視していなかったが、周りを明るくするような明るい笑顔。伸ばしていた髪を切り、目を覆う前髪が無くなり、些細な表情の変化を感じる事が出来るようになっていた。
ずっと一緒に居たのに、咲優の今まで知らなかった一面を見て、女性としての魅力に惹かれていた。
「なあ、じゃあさ告白しちゃえよ!大丈夫だって!」
「どうだかなあ」
真友に言われたからではない。正直なところ付き合いたいと思うし、自分の気持ちを伝えずに誰かに取られるくらいなら一度は告白したい。
それに、一番付き合いが長く咲優のことならなんでも知っていると思う。これだけ一緒に居るのだから俺に好意を抱いていてもおかしくはない。そんな謎の自信に満ち溢れている俺は今日の帰り道に咲優に告白することを決めた。
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
授業を終えるチャイムがなり、残りは掃除とショートホームルームだけだ。告白する事に今更緊張してきて、やること全てに集中できなくなっていて空回りをしてした。
そんな掃除すらまともに出来ない俺を見て、真友はバカにするように腹を抱えて嘲笑って来た。
都合が合う日の帰路は分岐道まで一緒に帰っている。特に理由はなく一緒に帰るのが日常になっていた。
「じゃあまた明日ね。ばいばい」
いつも通りの挨拶を交わす。だが、返事がない事に違和感を覚え、咲優は振り返る。
――そこには普段は見せない真っすぐな眼差しをこちらに向けている勇気がいた。
「咲優、俺は咲優が好きだ。俺と――――付き合ってほしい」
急な告白に相手は状況が理解出来ずに固まってしまっている。
内心相手もこちらに好意を抱いていると思っていたから、断られるとは思っていない。だが、もしかしたらという気持ちは拭いきれていなかった。
「っ!え。――――冗談とかじゃないんだよ……ね?」
「うん」
「急だったから、びっくりしちゃった。えーっとね、私はね……」
日付が変わり、俺はテンションがダダ下がりの状態で机に伏せていた。
「なあ、ともー、俺はこれからどうしたら良いんだよ……」
溜息交じりに話を切り出す。
「まさか、なあ。……元気出せよ、これからは男二人で仲良くしようぜ!」
「そうだな。これからもよろしくな」
そんな他愛もない会話をしていたら、咲優がクラスに入って来た。
いつもなら登校も一緒にしているのだが、正直気まずいしあちらもそう思っているはずだ。だから朝から合わないように少し早く家を出てきた。
咲優も同じ事を思っているのだろう。そのまま席へ着き、こちらに目線を運ぶ様子もない。
すぐに気持ちを切り替える事は出来ない。一番なってほしくない事態になってしまい、寂しい気持ちと悲しい気持ちは抑えられない。
いつも一緒に居て、同じ時間を共有していた関係に戻るには、どれくらいの時間が掛かるのだろう。あるいは、二度と関係が元通りにならないかもしれない。
昨日は散々泣いて、夢であってくれと何度も考えたが現実は変わらない。なんとも未練がましい自分が情けない。
フラれて、はいそうですか。で、気持ちを整理出来ればどれだけ楽だろうか。
ずっと考えていても仕方が無いし、せめて笑って気を紛らわせよう。そうしていれば、いずれ気持ちの整理も出来て、咲優から話しかけてくれるだろう。
そうと決まれば真友をからかって楽しむこととしよう。
俺はまだ咲優のことが好きなのだろう。恥ずかしい事に目で追ってしまっている。
気まずい気持ちのまま、あんまり話さない日々を送り、俺はいつも通り沢山の人と笑顔で話している。
咲優もいつも通りクラスメイトと挨拶をしたり仲良く会話をしている。お互いにこのまま話さない日々が続き、疎遠になっていた。
変わった日常と変わらない日常がそこにはあった。
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