第41話、終わりの始まり。

「──『無敵の人』部隊、全軍侵攻準備、完了!」


「──すでに、半島を始めとする東アジア大陸全域に、『自爆テロ』部隊の配置も完了!」


「──空軍戦略爆撃部隊発進準備、先制ミサイル発射準備、共に完了!」




「……よし、これより大陸反攻作戦、『ネオ・オバロ』を開始する! 東アジアを占領中の、異世界人どもに目に物見せてやれ!」




「──ハッ、国防大臣、バンザーイ!」


「「「大日本第三帝国、バンザーイ!!!」」」




 先遣部隊の威勢のいい万歳の大合唱とともに、上空スレスレを飛び立っていく、皇紀二七〇〇年式対地攻撃機、『ネオゼロファイター』の大編隊。


「……ついに、この日が来たか、まさに感無量だな」


「はい、まさに、異世界系Web小説様々ですね、あんなくだらない夢物語のせいで、本当に異世界の存在が確定して、こうして東アジア大陸部全体が、異世界人の転生者ばかりになってしまったのですからね」


「そのお陰で、いまだ正気を保っている我々日本人だけが、異世界人から東アジアを解放するという名目で、広大な領土を占領し放題というわけだ」


「まさに前の大戦の、『大東亜共栄圏』の再来ですね」


「……しかし、わしもすっかり、異世界転生に詳しくなったものだよ」


「軍事に関係する者には、必読ですからね。今や『愛国少年』たちにも大人気で、臣民すべてに広く愛読されていますよ」


「おいおい、異世界系Web小説を読み書きする者なぞ、『非国民』ではなかったのかね?」


「あはは、それはあくまでも、人体実験を秘密裏に行うための建前じゃないですか? すでに異世界転生の仕組みシステムを軍事利用していることが明らかになった今、Web小説を規制する意味はありませんからねえ」


「そういう意味では、Web小説こそ、我が帝国にとっての、恵みの神とも言えるかもな」


「まったく、おっしゃる通りで」


「「あっはっはっはっはっ!」」


「……うん? 異世界転生といえば、あのルイスとか言った、司教の姿が見えないが、どうしたのかね?」


「それが、我が帝国の開戦が正式に決定すると共に、彼を含めて聖レーン転生教団関係者全員が姿を消してしまい、その後の消息もまったくつかめないでいるのですよ」


「何だと? まさかあやつら、異世界側のスパイであったんじゃないだろうな?」


「彼の自己申告では、現在半島や大陸本土を占拠中の、異世界勢力とは元々何の関係も無く、彼らが東アジアに転生してきてからも、完全に没交渉とのことでした」


「……当然、うちの諜報部に、確認させているのだろうな?」


「ええ、もちろん、確かに教団関係者は誰一人として、東アジア大陸諸国との繋がりはありませんでした」


「なら、放っておけ、どうせ今から何をしようが、我が軍の先制攻撃に対応できまいて」


「それもそうですね。──では、作戦通り、進行いたします」


「頼むぞ、何事も、緒戦が大切だからな」


「ハッ!」



   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……やれやれ、ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこのことですねえ」


「せっかく、『異世界転生系のWeb小説を読めば読むほど、自分自身も異世界転生をしやすくなる』とお教えしたというのに、全国民挙げて、異世界転生系のWeb小説を愛読してしまうとは」


「まさか全然気がつかないとはねえ、自分たちが国家丸ごと、ただ単にシナリオ通りに演じているだけであることを」




「……ま、言ってみれば、帝国民全員が、『転生病』に罹患してしまい、大日本第三帝国という一つの巨大な病院に、入院しているようなものでしょうかねえ」




「はてさて、自分が小説の登場人物になってしまうなんて、一体どのようなご気分なのでしょうか?」


「しかもよりによって、異世界転生系のWeb小説お定まりの、東アジアに見立てた大陸を、現代日本からの転生者が、チートスキルと御都合主義とで征服していくという、『例のやつ』そのものシチュエーションですしねえ」




「──ただし相手は、異世界のファンタジー勢力なんかではなく、核ミサイルや最新鋭ステルスジェット機等々で完全武装している、本物の東アジア諸国なのですけどね」

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