第37話、『あいつら』の侵略。(その1)

 ──あなたは、現在の自分の『思考』や『意見』が、間違いなく自分自身のものだと、断言することができるだろうか?




「そんなこと、当然じゃないか」、だって?




 現在これほどまでに、ネット上における各掲示板を始めとして、文字通り無数の情報が乱れ飛んでいるというのに、その影響をまったく受けていないと、どうして言えるのだろうか。




 政治思想、ファッション、レジャー、教育、旅行、海外事情、料理、スイーツ、酒類、コミュニケーション、芸術、スポーツ、恋愛、アダルト等々の、情報はもとより、


 特にあなたたちに馴染みの深い、漫画、アニメ、ラノベ、Web小説、ゲーム、映画、イラスト、動画、インスタ、ネット上の掲示板、ツイッター、その他SMS等々といった、いわゆる『コンテンツ』の数々。




 間違いなく、どんなに個性的な人間であろうとも──それこそ、ガチで重度のオタクであろうとも、ネットの情報から常に何らかの影響を受け続けており、また逆に、自分自身からも無数の情報を、ネットを通じて全世界へと送り続けていることだろう。




 おそらくは、ほとんどの人々が、ネット上の情報を、参考的な意見や知識として受け取り、あくまでも自分自身の考えを補助あるいは発展させるものとのみ、位置づけているに違いない。


 誰だって、ほんのちょっとネットをかじっただけで、他人の発信した意見をそのまま鵜呑みすることなぞ、あり得るわけがないのだ。




 ──なぜなら、ネット上の情報は、あくまでも、あたかも自分自身の意志で『思考』や『意見』を変えているように思わせながら、『浸食』し『洗脳』していっているのだから。




 それこそが、ネット上における侵略者である、『あいつら』の手口なのだ。




『あいつら』は、ずっと昔から、この国の至る所に、潜んでいた。


 それも何と、インターネットなぞ影も形も無かった、大昔からである。


 彼らは自分の正体を巧みに隠し、まるで日本人そのままに振る舞い、関東大震災のような大災害や、太平洋戦争のような大戦争の時においても、庶民はおろか、大企業や政府中枢にまで入り込み、災禍を更に蔓延させたり、日本そのものを敗戦という破滅へと導いていったりもしたのだ。


 彼らは外面上は日本人とまったく見分けがつかないので、庶民はもちろん、一般企業や財閥や政治や行政や軍部の内部にも、巧みに浸透していき、この国を誤った方向へと導いて、民草どころか支配層すらも洗脳していった。


 例えば戦前の『国粋主義』などがいい例で、結局はナショナリズムの実行部隊である軍隊の壊滅を招き、国体やそれを支えてきた財閥は解体されて、ソビエト赤軍に北方領土を奪われると共に、国内においては何と、反国家的政治活動が合法化されてしまった。


 戦後の『平和主義』もまた同様で、極度の反戦主義は、日本の自衛力を大きく損ねて、周辺の危険思想に染まった国々からの侵略の影に、常に怯え続ける状況下に置かれることとなった。


 ──そうなのである、非常に皮肉なことにも、殊更『国粋主義』や『排他主義』を喧伝する勢力こそ、その正体が国内の極左暴力集団だったり、『平和主義』や『非武装化』を喧伝する勢力こそ、その正体が国外の武力勢力の手先だったりするのは、もはや常識なのだ。




 そしてその兆候は、インターネットがもはや完全に我々の生活に根付いてしまった現代において、ますます顕著となっていた。




 けして間違ってはならないのだが、ネット上で『右』寄りの意見を主張する輩は、実は『右』の権威を失墜させようとしている、『左』の勢力に与する者であり、逆に『左』寄りの意見を主張する輩は、実は『左』の権威を失墜させようとしている、『右』の勢力に与する者なのだ。




 更に悪質なことにも、我が国の国民同士で不必要な争いを起こさせようと、何かにつけて煽っているのが、言うまでもなく先程から指摘している、今や完全に日本人になりすましている、『あいつら』なのである。




 匿名であることを何よりも尊ぶ、文字通りの『工作員』である『あいつら』は、ネット上でこそまさに『水を得た魚』そのままに、謀略の限りを尽くしているというのが、まさしく我が国のインターネットにおける現状であった。


『あいつら』は、ある時は『右』となり、またある時は『左』になりすますことによって、巧みに『右』と『左』の対立を煽り、ネット上を常に政治的闘争の場に仕立て上げていた。




 なぜなら『あいつら』は、いついかなる時でも、『本国からの武装蜂起の指令』に呼応できるように、日本国民の団結力を削いでおく必要があり、ネット上のあらゆるジャンルにおいて、『対立煽り』の火をつけて回っているのだ。

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