第33話、女神様のささやき♡(異世界編)その6
「基本的に、異世界転生の実現──すなわち、ゲンダイニッポン等の高度な文化文明を有する世界の知識を、いわゆる『前世の記憶』として手に入れるためには、偶然の産物か、あるいは、本人の尽きせぬ願望とたゆまぬ努力の果てに到達した、奇跡的な『閃き』という『最後の一歩』への到達以外にはあり得ないでしょう」
「実在の聖女様であり、我が聖レーン転生教団においても、信徒の皆様に対する説話の際に必ずと言っていいほど『例え話』として取り上げられている、ただの下級役人の『本好きの女の子』が、当時全大陸的に劣悪だった一般庶民における『読書環境』をどうにか向上させようと、印刷技術や製本技術の開発や流通経路の開拓という、これまで誰も挑んだことのない難題に果敢に取り込み、その並々ならぬ努力と行動力とで『あと一歩』まで迫るものの、どうしても決定打が足りずにあがいていたところ、まさしく『神の啓示』そのままに、『閃き』という名の集合的無意識とのアクセスを果たして、ゲンダイニッポン人の『記憶と知識』を己の脳みそにインストールされることによって、見事に安価な書物の大量生産と効率的な流通経路の整備とを実現するといったふうに、言うなれば、革新的な思考や願望を持ったこの世界の人物の身を借りての、事実上の異世界転生とも言える、ゲンダイニッポン人の『記憶と知識』のインストールによってこそ、この世界の文化文明の発展が図られてきたとも言えるのです」
「こうしてみると、ゲンダイニッポン人としての異世界転生現象は、この世界に『福音』をもたらすものであるかのようにも思えるでしょう」
「……しかし、それはほんの例外に過ぎなかったのです」
「──そう、結局ゲンダイニッポンからの異世界転生は、この世界の住人にとっては、『福音』であるどころか、『呪い』であり『悪意』の具現以外の何物でもなかったのです」
「それというのも、ゲンダイニッポンからの異世界転生は──すなわち、ゲンダイニッポン人としての前世の記憶は、人類だけに宿るとは限らず、なんと蜘蛛やスライムやドラゴンの卵等の脳みそにインストールされることさえもあったのです」
「──すると、どうなると思います?」
「元々人間を遙かに凌駕する、巨体や怪力や繁殖力を有していた怪物たちが、ゲンダイニッポン人ならではの狡猾な知能と残虐性を手に入れてしまうのですから、この世界が阿鼻叫喚の地獄絵図となり、下手すると脆弱な人間なぞ絶滅の憂き目に遭うことさえも、十分考えられるでしょう」
「これでは『福音』や『恩寵』なぞではなく、やはり『呪い』や『悪意』と呼ばざるを得ません」
「……実はそれは、元々知性や理性のある、人間においても、同じことなのです」
「──おっと、これについてはむしろ、あなた自身がよくご存じでしたよね、『地方貴族の十男坊』さん?」
「先ほども例に挙げましたが、『本好きな女の子』が自分の夢を叶えるために、ゲンダイニッポンレベルの技術的知識にまでたどり着いて、結果的にこの世界の庶民の娯楽環境のみならず、知的レベルまで格段に向上させるとともに、社会全体としても科学技術や流通経路の大革新が果たされて、文化文明レベルが格段にレベルアップするという、大恩恵をもたらしてくれたものの、そんなあまりにも急激な変革は、利益だけでなく弊害をももたらしてしまうことも、けして忘れてはなりません」
「中でも特に多大なる迷惑を被るのは、いつだって周りの人たちなのです」
「まさにあなたは当事者ですが、『地方貴族の十男坊』や『下級役人の末娘』なんかが、いきなり
「──きっと彼らはこう思うことでしょう、『これは一体、何の「呪い」なんだ?』と」
「そして、彼らは──否、我々この世界に住むすべての者は、次第に気づいていったのです、そこにはもはや『悪意』とも呼び得るような、明確な『作意』さえもが存在していることを」
「先ほど例に挙げました、『本好きな女の子』程度の話なら、別に構わないのです。確かに周囲に多大なる影響を与えましたが、そもそも彼女の目指すところが、世のため人のためとなる『読書習慣の普及』という『庶民の知識の底上げ』を実現するものであり、結果的には社会全体の科学技術や経済効率のレベルアップを果たしたのですからね」
「──しかし、ジュナーン=ナロタロさん、あなたのような、まさしく狡猾極まるゲンダイニッポン人ならではの、あくまでも自己中心的な野望に満ちた方々ときたら、一見世のためになるかに見える『NAISEI』すらも、己自身の『成り上がり』のための手段に過ぎず、地方領主であった実の父親を皮切りに、要所要所で権力者に取り入りつつ、最後にはその相手すらも平気で裏切り
「──そう、異世界転生なんて、結局『呪い』でしかないのですよ、それも『悪意に満ちた呪い』でしかね。つまりあなたは、異世界の『Web小説家』とかいうふざけた輩から、『悪意に満ちた呪い』を受けているだけなのですよ」
「単なる普通の、地方貴族の十男坊が、小役人の娘が、蜘蛛が、スライムが、ドラゴンの卵が、その他この世界の住人や、モンスターたちが」
「あたかも自分自身のことを、ゲンダイニッポンにおける、異世界転生系の小説の『登場人物』であるかのように、思い込むようにね」
「──だって、
「しかもやっていることは、馬鹿の一つ覚えみたいに──そう、まさしく『厳然とした作意』によって生み出された小説のストーリーであるかのように、地方の弱小貴族領の『NAISEI』に始まって、学園生活を経て、王家の政治に携わって、現代兵器を駆使しての大戦争に勝利して、大陸全体を支配下に収めて、望み通りのチーレムスローライフを実現するといった、『だからおまえは「なろう系」とか「太郎系」とか呼ばれるんだよ⁉』と悪し様に罵られるばかりの、陳腐でワンパターンなストーリー展開」
「こんな、稚拙な素人小説のような、馬鹿げた人生を強制させらるなんて、『悪意に満ちた呪い』以外の、何だと言うのですか?」
「──あはははは、もしかして、ゲンダイニッポンで作成されているという、異世界転生系の小説って、実のところはすべて『ホラー小説』なのかも知れないですね」
「……ただし枕詞として、『
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