第30話、女神様のささやき♡(異世界編)その3

「──いやいや、ちょっと待て! 俺を異世界転生させてくれた『女神様』なんて、存在しないだと⁉ 一体何を言っているんだ? おまえら聖レーン転生教団こそは、ありとあらゆる世界において異世界転生を司っているとされている、『なろうの女神』を御本尊にしているのだろうが⁉」




 長年の表の政治活動や裏の工作活動の相棒パートナーであった、裏切り者の聖職者による、俺にとっての心の支柱である『女神様』の全否定に、まさしく心を折られそうになったものの、考えてみれば、大陸中の信徒からの『女神様』への信仰によって、多大なる富や権力を得ている宗教団体の幹部が、「何を『おまゆう』の極致を、やっているんだ⁉」──という怒りに駆られて、思わず突っ込んでしまった。


 しかし、そんな至極当然な指摘に対して、その黒衣の司教様は、あっさりと言ってのける。




「むしろ、一応司教という、幹部の端くれに連なる身分で教団の内部にいるからこそ、断言できるのです、この世に『全知全能の神』などという絶対的な存在なんて、いやしないことを」




 ──いやあああああああああああああああああああああああああああっ⁉


 聖職者として、けして言ってはならないことを、断言しやがったよ、こいつ!


「おまっ、大陸中の無数の信徒の皆様に、『女神様のご加護を信じるのです』とか何とか言って、信仰心のみならず、お布施とか労働奉仕とかを収めさせることによって、莫大な富や権力を得てきたくせに、それじゃ完全に『詐欺』じゃん⁉」


「詐欺などとは、人聞きの悪い、我々あくまでも、『ちょっとしたお手伝い』という意味で、信者の皆様を導いているだけなのです。──なぜなら人は、精神的に支えになるもの、いわゆる『支柱』が無いと、生きてはいけないからです。この世は地獄そのものであり、生き続ける限りは、絶望しか無いのですよ。そんな人々の『精神支柱』こそが、『信仰』であり、その対象である、『神』なのです。つまり我々教団は、それを必要としている人々に、『なろうの女神』という信仰の対象と、『教会』という信仰の場とを、与えているに過ぎないのですよ」


「……それってさあ、結局のところ、『人の弱みにつけ込んでの、霊感商法』そのものじゃないの? 特に導く側が、『神様なんか実在しない』と、はっきり断定しているところなんて、いかにも無知な信徒たちを騙して洗脳して、全財産を奪い取るといった、『カルト的新興宗教団体』そのものだし」


「いえいえ、信者の皆様にとっては、ちゃんと『女神様』は、のですよ?」


 ………………………………は?


「な、何だよ、この世界には、神様なんか、いないんじゃなかったのか⁉」


「ええ、元はいなかった神様を、信者の皆様が、のです」


 なっ⁉ 人間が、神様を、生み出しただと?




「──なぜなら、人の信じる心の中にこそ、『神』は宿るのですから。もちろん、その一つ一つは、風が吹けば消え去ってしまうような、儚い蝋燭の灯火のようなものでしょう。しかし、何十何百何千何万の人々の信仰心が集まって象られた『神様』は、もはやその存在を疑うことなぞ赦されない、確固たるものとして、信者の皆様と共に『在る』ようになるのです。──それともあなたは、このような人々の信仰心の結晶である『神』の存在を、先ほどのように、単なるまやかしや妄想に過ぎないと、斬って捨てることができるとでも言うのですか?」




 ──っ。


 ……人々の信仰心こそが、神様を、この世に生み出すだと?




「そ、そうか、つまり宗教団体のやっていることって、極論すればすべて『詐欺』そのものだが、だからといってそれらがすべて、『詐欺』だからこそ、人を救うことだってあり得ると言うことか? 確かに、宗教によって人々を『神様を信じる』ように誘導して、それぞれの心の中に神様を芽生えさせれば、それこそが『本物の神への信仰』となり得るというのは、心から納得できるしな。──いや、さっきは頭ごなし否定したりして、本当に悪かったよ」




「いえいえ、きっと信じてくださると思っていましたよ。──何せ、あなたもなのですからね」


 え。


「な、何だよ、俺も同じって?」


 いかにも唐突な司教の思わせぶりな台詞に、戸惑いながらも問いただせば、




 またしても、とてつもなく衝撃的な言葉を、賜ることになったのだ。




「つまりですね、あなたの頭の中でこれまで散々、異世界であるゲンダイニッポンのことについて、あれこれささやいていた女神様こそは、我が教団の信徒の皆様の信仰心の集合体である、ある意味『本物の神様』と、まったく同一の存在とも言えるのですよ」

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