第15話、202×年、GINZA〜『令和事変』その11
──その瞬間、ここ厚生労働省の大会議室は、あたかも惑星そのものが静止したかのように、完全なる沈黙に包み込まれてしまった。
それも、そうだろう。
何せ今や、ちょっとでも下手なことを口に出したりしようものなら、世界観そのものが、崩壊しかねないのである。
しかし、いつまでも、
意を決した我が国の首脳陣の一人が、諸悪の根源である、痩せ細った長身にヨレヨレの白衣をまとい、ボサボサ頭に瓶底眼鏡という、いかにも『マッドサイエンティスト』然とした、この会議の司会者兼解説係に当たる男性へと、おずおずと問いかけた。
「……なあ、君」
「はあ、何でしょうか?」
「今からちょっと、セーフかアウトかどちらかと言うと、むしろアウトかも知れないような、メタ的な話をしてもいいかな?」
「えっ? あ、はい。まあ、この作者の作品なんだから、今更少々のメタくらい、別に問題にはならないんじゃないでしょうか」
「いや、今の君の台詞自体が、『完全にアウト』級のメタ発言だと思うのだが、まあいい。──それよりも、さっき君は、この世界において、『自衛隊の反乱部隊が武装蜂起してしまった』のは、この現実世界に対応する、『自衛隊の反乱部隊が武装蜂起してしまう』ことを描いた『小説』が存在するからって、言ったよな?」
「ええ、一見、あたかも小説に書いたことが現実化してしまったかのように見えますが、実は
「……うん、難しいことは、この際脇に置いておこうか?」
「え、では、大臣は、何をおっしゃりたいわけで?」
「つまりだね、最大級にメタ的なことを言えば、『自衛隊の反乱部隊が武装蜂起することを描いた小説』とは、まさに
「「「──それ、すげえ、あり得る⁉」」」
今この場にいる、我が国の首脳陣の心が、完全に一つとなった。
「そうだよな、この作者って、ホラーどころか小説というもの自体を、完全に勘違いしているよな!」
「自分一人が、『わかっている』
「まさに、こじらせた、『意識高い系』w」
「そもそも運営様が『病院ホラー』っておっしゃっているんだから、こんなメタ作品を創って、奇をてらわなくてもいいだろうが?」
「普通に、廃病院を舞台にしたり、医療事故や院内いじめによってお亡くなりになった患者さんや看護婦さんが化けて出たりする、ありきたりなパターンにしておけばいいではないか?」
「むしろ、テンプレを全否定すること自体、『近視眼的』と言わざるを得ないよな」
「しかもあの、まるで親のかたきか何かように、『実話系怪談』を忌み嫌っているのは、何なのだ?」
「けして少なく無い読者様から求められているということは、作品ジャンルとして、ちゃんと存在価値があるわけなんだから、外野があれこれ言う資格は無いと思うがなあ……」
……今回はまさに、『作者フルボッコの回』、であった。
──そして、これまで完全に沈黙を守っていた白衣の司会者が、満を持したように厳かに口を開く。
「つまり皆さんは、ホラーどころか小説というものすらも碌にわかっていない、駄目作家によって創られた作品の登場人物である我々自身も、当然のごとく駄目な存在でしかないという結論が、必然的に導き出されることこそが、『最大の
「「「──いやいやいやいやいやいや、違う、違います! 何その、斬新極まる、ひねくれまくった、ホラー小説は⁉」」」
「え、違うんですか?」
「「「当たり前だろう? ──つうか、そもそも肝心の『ホラー小説』の概念というものが、一体何だったのか、もはや完全にわからなくなってしまったよ⁉」」」
「……ふむ、となると、作品の途中で、登場人物たちが、ホラー小説の概念自体を見失ってしまうことこそが、真の究極のホラー小説であると?」
「「「──もう、その路線は、やめろ!」」」
「……えー? だったら、皆さんは結局、何がおっしゃりたいわけで?」
「「「だから最初から、言っているではないか? 果たしてこの世界は、『本当は怖い異世界転生⁉【病院編】』という小説に描かれた、架空の世界に過ぎないのか、どうかと!」」」
「はあ? 何を馬鹿なことを、おっしゃっているのですか? この世界が小説に過ぎないですって? そんなことがあり得るわけが無いではありませんか」
「「「………………………………へ?」」」
そしてその白衣の男性は、大きく溜息をつきながら、言葉を続けた。
「確かに私は、なぜこの世界がよりによって、異世界からの侵略の対象になってしまったのかの原因として、まさに『この世界が異世界からの侵略に遭う』といった
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