空に見る夢

七崎七

第1話 プロローグ

 抜けるような青空が広がっていた。たなびく雲は綿毛のように薄く、天に輝く太陽の陽射しは穏やかで、立ったままでも眠れそうな陽気に負けて、アルドの口からふぁっと小さなあくびが漏れる。

「気持ちのいい天気だな……」

 今日は一日予定もないため、軽く鍛練でもするかとヌアル平原に来たはいいが、このままでは昼御飯の時間もまだだというのに、昼寝をしてしまいそうだ。

 眠気を払うように大きく伸びをする。

 透き通る空に歪みが現れたのはそのときだった。

「ん?……空に何か……」

 水彩絵具で描かれたような淡い色の空にぼたりとペンキでも落としたような、あるいは空という名のキャンバスの一部が破り取られたような、そんな光景が目に飛び込んでくる。

 空間そのものをぐにゃりとねじ曲げる青い光。過去と未来を繋ぐ時間のトンネル。それはアルドにとって、すっかり見慣れた光景だった。それでもアルドがひどく驚いたのは、それが現れた位置のせいだった。

「なんで、あんな場所に時空の穴が……!?」

 時空の穴はたいてい地面近くに発生する。例外はあるとしても、空に奇妙な光が現れたという話が人々の口の端に上らないことを考えると、その数は非常に少ないはずだ。

 目を見開いたまま棒立ちになるアルドだったが、驚きはそれで終わらなかった。穴から何かが猛スピードで飛び出してきたのだ。

 それは巨大な鳥のように見えた。硬質でありながら、艶やかな銀色の羽を持つ人工的な鉄の鳥。それは未来の世界で見た空飛ぶ乗り物によく似ていた。

 鳥のような乗り物は空を見回すように一度ぐるりと回ると、そのままふらふらと蛇行を繰り返し、やがて失速するように落下していった。

 それが視界から消えるのとほぼ同時に、ドォンという大きな音が響いた。

 平原が、大きく揺れた。

「うわっ! すごい音がしたな」

 次から次へと畳み掛けるように目に飛び込んでくる驚きの状況に頭がついていかない。まるで観客を驚愕の渦に突き落とす奇術師の技を見せられているような心地だ。

 気持ちを落ち着けるように、アルドは一度深呼吸をすると、謎の物体が墜落した方向に目を向けた。

「さっきの物体、いったいなんだったんだ? 見た目から判断するなら、未来の何かだけど……」

 ヌアル平原は近隣の村と村を繋ぐ要所で、旅人や商人の往来も多い。もし空から落ちてきたのが合成人間の兵器や、警備用ロボットのようなものだったら、何も知らない人間が好奇心から近付いて被害が出てしまうかもしれない。

 先程までの眠気がすっかり飛びきった頭で考え、アルドは今後の方針を決めた。

「危険なものだったら困るし、とにかく一度確認しておくか。確か落ちたのは北の丘の方だったよな」

 空にぽっかりと空いた青白い穴をちらりと見てから、アルドは目的の場所に向けて歩きだした。

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