生命の水

坂並佐藤

第1話


 朝の陽ざしの下、アルドは自宅の扉の前でうんと伸びをした。このところ、ずっと旅を続けていたので、久々の自分のベッドはすごく気持ちがよかった。


「おはようございます」


 不意に声をかけられて、アルドはきょとんとその声のする方を見た。


「あ、ああ、おはよう・・・」


 バルオキー周辺ではあまり見かけない、銀髪の長い髪の娘だった。挨拶をしてきたその娘は、驚くアルドを見て微笑みながら、目の前を横切って隣の鍛冶屋に入っていった。


 「不思議な雰囲気の子だな。あんな子バルオキーに居たか?旅人って風でもないし」


 それに、朝早くから鍛冶屋に行く用などあるのだろうか。幸い、アルドは隣の鍛冶屋とはなじみが深い。一人娘とはこの村で一緒に育った幼馴染だ。


 「気になるな。メイに挨拶がてら、ちょっと行ってみるか・・・。・・・あれ?」


 鍛冶屋に向かおうとすると、先客がいた。同じ自警団のダルニスだ。すぐそばのアルドに全く気付く様子もなく、扉を開けて入っていく。ダルニスは代々狩人の家系で、獣のみならず、人やほかの生き物の気配に敏感な性質だ。その彼が、この距離でアルドに気づかないのは珍しいことだった。


「ダルニスじゃないか。こんな朝から何の用だろう?」


アルドも鍛冶屋へと歩いていき、扉に近づくと中から声が聞こえてきた。ダルニスの声、それと、もう一人はおそらく、先ほどアルドに挨拶をしていった娘の声だ。


「じゃあ一人で村を歩いてきたのか?言ってくれれば護衛くらいしたんだが」


「そこまでしてもらうとかえって悪いわ」


 鍛冶屋に入ると、ダルニスとメイ、そしてさっきの娘が三人で話をしていた。アルドに最初に気づいたのは、扉の方を向いていたメイだった。


「ダルニスったら過保護すぎじゃない。・・・おや、アルド!」


メイの声に、ダルニスと娘も気づいて振り返った。


「帰ってたのか。久しぶりだな、アルド。お前も何か用だったか?」


「ああ。いや、見かけない子が鍛冶屋に入っていったからさ、ちょっと気になって」


娘の方に目を向けると、彼女は笑顔で応えてくれた。


「やっぱり、あなたがアルドだったのね。さっき見かけて、もしかしたらそうかなって思ってたの。二人が言っていた通りだったから」


「君は?」


「あ、ごめんなさい。私はアマルダ。ついこの間から、メイのお家でお世話になっているの」


「そうだったのか。よろしくな、アマルダ。メイの家でって・・・二人は知り合いだったのか?」


アマルダは首を横に振った。


「そういうわけじゃないんだけど・・・」


「そうか。何か事情があるのか?」


その問いには、ダルニスが答えた。


「アルド、彼女はどうやら記憶を失ったようなんだ」


「記憶を!?大変じゃないか。なんでまたそんなことに・・・」


「この前、雨の日に月影の森で倒れてるところをダルニスが見つけて連れてきたのさ。でも」


「でも、ダルニスに助けられる前の記憶が、思い出せなかったの。私がどこから来たのか、どうしてあんなところで倒れていたのか。自分の名前以外、何も・・・」


「そうだったのか・・・。まあ、困ったことがあったら何でも言ってくれよ。力になれることならなんでもするからさ」


「お、でたね。アルドのなんでもするはあてにしていいよ。アマルダ。」


メイの言葉に、ふふっと、彼女は笑う。


「本当に聞いた通りなのね。頼りにさせてもらうわ」


「もちろん。でも、二人はアマルダにオレのことなんて言ってるんだよ・・・」


ダルニスも笑う。


「心配するな。そのままのことさ。さて、食料と薬は届けたし、俺はそろそろ行くよ。アルドはこの後、時間はあるか?できれば、おまえがいなかった間の村の様子や自警団の活動内容を連携しておきたい」


「ああ、わかったよ。メイ、アマルダ、じゃあまた」


「アマルダ、あまり無理するなよ。また来る」


「ええ、また」


―――アルドとダルニスは同じ自警団のノマルと合流し、連絡を終えた。


「さて、こんなところかな。ノマル、なにかあるか?」


ノマルはアルドやダルニスより年下で、自警団では後輩にあたる。ダルニスの問いに、ノマルはうなづいた。


「そうですね、自警団の仕事とは違うかもしれませんが、ちょっと気になる話を聞いて、ダルニス先輩にお伝えしようと思ってたんです。」


「なんだ?」


「村の人に聞いたんですが、この辺じゃ見かけない若い男が、なんでも行方不明になった婚約者を探しているとかで、心当たりがないか、かたっぱしから声をかけているんだそうです。それで色々と話を聞いたところ、多分その婚約者というのは、今、メイさんのところにいるアマルダさんのことじゃないかと」


 ノマルの報告に喜んだのは、先ほどアマルダと会ったばかりのアルドだった。


「大事な手掛かりじゃないか!早めに知り合いが見つかったみたいでよかった。それで、その人はどこにいるんだ?」


「もし会うことがあれば、これからユニガンに行くから伝えてほしいということでした。男の人が来ていたのが三日前という話ですから、多分まだユニガンを発ってはいないでしょう」


「そうと決まれば・・・!ダルニス、アマルダをユニガンに連れて行って確かめてみよう!」


喜び勇むアルドの言葉に、ダルニスは呆けた顔をしていた。


「・・・。」


「ダルニス・・・?」


「ああ、そうだな。ユニガンか。・・・行ってみよう。」


取り繕ったようにそう言うと、先に鍛冶屋へ歩き出した。いやに覇気がない。


「どうしたんだ?ダルニスのやつ・・・。」


「うーん、もしかしてやっぱり・・・。」


 ノマルには心当たりがあるらしい。


「なんだ?」


「・・・いえ、なんでもありません。」


「どうした、アルド? 行くんじゃないのか?」


 ノマルが気になる言い方をするのでもう少し話を聞きたかったが、話しているうちにダルニスは随分先に進んでしまった。


「ごめん、ノマル。ひとまず行ってくる。悪いけど、自警団のことは引き続き頼むよ」


「いつものことです。お気をつけて!」


うなずくアルド。


「ダルニス、悪い、今行くよ。」




鍛冶屋へ戻ったアルドとダルニスは、ノマルに聞いた話をそのままアマルダとメイに話した。


「そうかい、婚約者かもしれない人が見つかったんだね。・・・そうか、よかったじゃないか。」


メイは素直に喜んでいるようにも見えるが、なんとなく複雑そうな顔をしていて、それだけではないようだった。


「ノマルも聞いた話だから、確かなことじゃないんだ。もしかしたら全然知らない人かもしれないし、その人もいつユニガンを発ってしまうかわからない。会ってみるならすぐのほうがいいと思う。俺とダルニスがユニガンまで護衛するよ。」


 アマルダは、露骨に不安そうな顔をしていた。


「そう、なんだ。婚約者・・・。」


「大丈夫か?」


ダルニスの言葉は短いけれど、アマルダを思いやる柔らかなものだった。


「そうね。正直、婚約者だなんて言われてもピンとこないし、顔を見たって思い出せるとは限らないのかなって、思うわ」


「そうか」


「ダルニスは、どう思う?」


「どうって・・・」


「ダルニスは、私が行ってもいいの?」


ダルニスは少しためらったが、アマルダの目を見て


「いいも悪いもないさ。君が決めることだ。」と言った。


「そう・・・。」


メイが小さな声で、でも、怒ったように「バカ」と言ったように聞こえた。アルドにはメイが何に怒っているのかわからなかった。


アマルダのユニガンへの旅路には、アルド、ダルニス、メイの三人が同行した。情報集めに寄った酒場で、マスターに話を聞くと、さっそく心当たりがあるようだった。


「婚約者を探してる男か。それならあいつのことだろうな。」


「知ってるのか?」


「ああ、つい最近来て、ここのところ毎日ウチに顔を出して話を着て行ってるんだ。まあ間違いないだろう。多分、今日も夕方になれば来ると思うぞ。」


「そうか!いやあ、うまく見つかるか不安だったけど、よかったよ。なあ!」


アルドは喜んで振り返ったが、ダルニス、メイ、アマルダはともに浮かない様子だった。かろうじて、メイが口を開いた。


「うん、そうだね。なんにしても、アマルダの記憶の手掛かりになるかもしれないんだ。一歩前進には違いないさ」


「なんか、元気ないな。三人とも、どうしたんだ・・・?」


朗報のはずが、まるで逆のような扱いを受けて、アルドが首をひねる。


「アルド、ちょっと来な」


メイがため息をついてアルドを隅にひっぱる。アルドの顔には疑問しか浮かんでいない。


「アマルダとダルニス、どう思う?」


「どうって?」


メイは再びため息をついた。


「ダルニスはアマルダをあたしに預けてから、毎日なにか理由をつけて会いに来てた。アマルダの体調が回復してもずっとだよ?アマルダもダルニスが来るのを心待ちにしてるみたいだった。わかる?」


アルドは息を飲む。


「つまり・・・。」


「そう。」と、メイはうなづく。


「どういうことだ?」


メイの三度目のため息は深いものになった。


「あんたはホントに昔からニブチンだね・・・。あたしもあんまり無粋なことは言いたくないんだけど、ようはお互いがお互いのことを好きなのさ。ダルニスは自分でもそれに気づいてるかわからないけど、アマルダはきっと自覚してる。だから、記憶の手掛かりとはいえ、婚約者なんて人があらわれて困惑してるのさ。」


「そういうことか・・・!!」


「わかった!?」


メイの怒気をはらんだ迫力に、アルドは何度もうなずいた。


「でも、どうするんだよ。もうすぐ夕方だ。例の男の人がそろそろ来ちゃうんじゃないのか?」


「そんなの、あたしにだってわかんないよ。でも、アマルダの記憶や過去とはいつかは必ず向き合わなきゃいけないんだ。それが今だってことなんだよ・・・。」


ふとドアが開く音がして、酒場に入る影が見えた。


「あれ、もしかして・・・。」


アルドが視線を送ると、酒場に入ってきた男は、カウンターにいるアマルダを見て驚いていた。


「アマルダ・・・!?」


アマルダは自分の名を呼ぶ男の顔を見たが、


「あなたは・・・?」


アマルダの反応に、男は落胆したようだった。


「僕が、わからないのかい・・・?君が婚約した男だよ・・・?」


「あの、ごめんなさい。私、記憶が・・・。」


「わからないのかい・・・?君が、何もかも奪った男だよ・・・?」


「え・・・?」


男は一歩足を踏み出して、アマルダに近づいた。なにやら雰囲気がおかしい。殺気立っている。


「家族を殺し、友達を殺し、僕に罪を着せて、それで僕のことなんて覚えてないっていうのかい?」


たまらずダルニスが割って入る。


「待ってくれ、何かの間違いじゃないか!?」


もう一歩、男はアマルダに近づいた。


「え?」


困惑するアマルダの胸には、ナイフが突き立てられていた。


「アマルダ!!」


ダルニスの怒声が酒場に響く。アマルダはナイフと見て、ゆっくりと、その場にへたりこむようにその場に膝をつき、倒れた。


「アマルダ!しっかりしろ!なんてことだ・・・。マスター!神官を呼んでくれ!回復魔法を、彼女に!」


「あ、ああ!わかった!待ってろ!」


酒場のマスターは返事をして、転び出るように慌てながら外に飛び出していった。


「アマルダ!聞こえるかい!?しっかりしな!大丈夫、ここはユニガンだ!すぐに神官が来てくれる!」


メイもアマルダに駆け寄って声をかけるが、アマルダに反応はない。一方、アマルダの胸を刺した男は、血に濡れた手で自分の額をおさえる。その口元は、見ようによっては、嗤っているかのようだった。


「ひどいじゃないか、アマルダ。僕が何をしたっていうんだよ。何のために、みんなを殺したんだ。なんで・・・。なんで僕のことを覚えていないんだ。僕はこんなに、君だけを想って・・・ずっと、探していたのに・・・。」


「お前はさっきから、何を言っているんだ。自分のしたことが分かっているのか!?」


ダルニスは背中にアマルダをかばいながら男に言い放つ。

男の後ろではアルドが出入り口を塞ぐように立っていた。こういうときアルドは普通、アマルダ側で守るように立つ。でも今はアマルダ側にはダルニスがいる。だからアルドは迷いなくこちらに立った。それはダルニスを信頼している証だった。だが、その信頼が裏目に出た。

 音もなく、アマルダが立ち上がった。


「アマルダ・・・?」


 呼びかけていたメイが、茫然とその姿を見上げる。

アマルダは自分の胸に突き立てられたナイフをつかむと、引き抜いて、そのまま自分をかばっているダルニスのその背中に刺した。


「なにっ・・・!ぐっ・・・!」


その場に膝をつくダルニス。

メイはすべてを見ていた、でも、目の前で起こったことを理解することができなかった。


「なっ、アマルダ!なにをするんだ!?」


アルドは思わず剣を抜いた。

アマルダに向き合った男だけが驚きもせず、「同じだ」と嗤いながらつぶやいた。


「なにって、退屈しのぎよ。」


アマルダは胸に大きく血を滲ませながら、なんでもないことのように静かな声で言った。


「アマルダ・・・?」


膝をつき、ダルニスはアマルダを見上げる。そこにいるのが、つい先刻まで一緒にいて話をしていた彼女自身だと思うことができなかった。彼女は、今までに見たことのない冷たい眼で微笑んでいた。


「あら、元気そうね。急所を刺したと思ったけれど、失敗だったかしら。使い慣れないものを使うとうまくいかないわね。」


アマルダはダルニスから嗤う男に目を移す。


「あなたも、とっても楽しい時間になったわ。探しに来てくれてありがとう。さっきは知らないフリをしてごめんなさい。もちろんあなたのことは覚えているわ。ご家族に愛されて、お友達もたくさんいたわね。・・・まあ、私が全部殺しちゃったんだけど」


「・・・アマルダァァ!」


「えーと、あなた、名前なんだっけ?」


「う・・・あああああ!!!」


男は腰にあった剣を抜き、怒りとともに振り上げてアマルダにとびかかる。

一閃。アマルダが手をかざし、そこから光が走ったように見えた。それは男を貫き、後ろにいたアルドごと店の外に吹き飛ばした。


「うわっ!」アルドは悲鳴を上げたが、光は鞘で防いだ。


「お疲れ様。あなたの出番はここまでかしら」


アマルダはゆっくりと歩いて店を出て、倒れた男に言葉をかける。


「おい、しっかりするんだ!くっ、ダメか・・・!」


アルドは男を抱き起そうとしたが、胸を貫かれているのがわかった。男の目はもう、光を宿していなかった。


「あら、無事なの。さすがねアルド。メイが『アルドは大変な時ほど頼りになるすごい奴なんだ』って褒めてたわよ。本当に言ったとおりだわ」


アルドは剣を構えた。

「一体・・・お前は何者なんだ!?」


アマルダは笑う。


「鍛冶屋で自己紹介したじゃない。アマルダよ。」


その言葉に返事をしたのは、メイに支えられ酒場から出てきたダルニスだった。


「少なくとも、俺の知っているアマルダにこんなことができるとは思えないな」


もう動かない、倒れた男の姿を見て、目を伏せる。


「あれは、未来の俺か?」


「それは、面白そうな脚本ね。」


「なんのために、こんなことを?」


「聞いていなかったのかしら。退屈しのぎよ。おかげで楽しかったわ。ああ、もちろん、バルオキーでの甘酸っぱい恋愛ごっこも含めてね。」


「そうか・・・。」


ダルニスは弓を構えた。


「君の真意はわからないが、俺は俺の仕事をしなければならない。騎士団に突き出す。せめて、おとなしく捕まってくれ」


「あはははは!殺すって言ってもいいのよ!?やさしいのね!・・・でも、手を抜けば死ぬのはあなたたちかもしれないわよ!」


夕暮れの太陽が黒い雲に隠れ、その雲はすぐに空全体を覆った。強い雨が降りはじめ、大気は、水の波動に包まれた。


「これは・・・!」


滝のような雨で視界が悪くなる中、アマルダは先ほど男の胸を貫いた光を何本も打ってきた。それは、高圧の水が柱のようになって放たれたものだった。

かろうじて避けるアルドとダルニス。アルドは近づくことができず、ダルニスが放つ矢も、大雨の中勢いが弱まって、たやすく水の柱に撃ち落されてしまう。二人が苦戦する中、アマルダは周囲を見まわしていた。


「メイはどこかしら」


気づかれる直前、メイは死角になっていた物陰から飛び出し、ハンマーを振りかぶってアマルダの頭に叩きつけた。ぐらり、とアマルダの体が揺らぐ。手ごたえがあった。モンスターならともかく、人間相手にここまでやれば、気絶は間違いない。覚悟を持って、メイはハンマーを振りぬいた。


「なんでさアマルダ!友達だと、思ってたのに・・・!」


―――ぐるり、とアマルダの顔がメイの方を向く。


「さみしいじゃない、私は今でも友達だと思っているのに」


倒れかけていたアマルダは、メイににこりと笑いかけて水の柱を放つ。柱は命中してメイは吹き飛び、―――倒れて動かなくなった。

うつぶせに倒れたメイの身体。その下の地面に、赤いものが広がってく。


「うわああああ!オーガベイン!!」


アルドはメイがつくってくれた隙を見逃さなかった。時空を断つ魔剣を抜き、その斬撃はアマルダの身体を引き裂いた。彼女自身の言った通り、手加減などしている余裕はなかった。

悲鳴もなく、ゆっくりとアマルダが倒れると、嘘のように雨が止み、元の夕日が戻った。


「メイ!メイ!大丈夫か!?しっかりしろ!」


アルドは倒れたメイに駆け寄り、ダルニスもそれに続いた。


「う、動かさないで・・・。痛い・・・。」


返事があったことに安堵するアルドとダルニス。だが、その脇腹の大きくえぐれた傷を見て青ざめる。


「傷が深い・・・!・・・メイ!」


「これは一体・・・!?」


そこへ駆けつけたのは神官だった。酒場のマスターが後ろから息を切らして追いついてきた。酒場から神殿はそうと近い場所ではない。ずっと走って神官を呼んできてくれたようだった。


「助かった!説明はあとでする!メイに、この子に回復魔法を頼む!」


神官はとまどいながらも、急いでメイの治療にあたる。メイの傷口と顔色を見て、神官はほっと息をつく。


「大丈夫、これならすぐに治りますよ。しばらくの我慢です。」


痛みに耐えて荒かったメイの息が、回復魔法を受けて落ち着いてきたのを見届けて、ダルニスは傍らで倒れたアマルダに歩み寄った。肩から腰までを大きく斬られ、目を見開いて恐ろし気な形相で倒れていた。ゆっくりと顔に触れ目を閉じてやる。


「ダルニス・・・。その・・・。」


ダルニスの後ろから、アルドが声をかける。歯切れが悪いのは、彼女を捕まえるのではなく、斬ってしまったことへの罪悪感からだろう。


「ありがとう、アルド。ああしなければ、メイはやられていたさ。」


 アルドは無言でうつむいた。


「すまない、アルド。少しそっとしておいてくれ。頭の整理が追いつかない。悪い夢でも見ている気分だ。」


「・・・ああ、わかった。」


 騒ぎを聞きつけた兵士たちが走ってくる足音や鎧の擦れる金属音が聞こえてくる。この状況を説明するのは難しそうだ。


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