だからずっと、この想いを胸のフィルムに焼き付けよう

玖音ほずみ

第1話

 あれは今日みたいに蝉が鳴いて、日差しが照り火照っていた夏の日のことです。私はあの日、自分のスマートフォンにダウンロードできる良いカメラアプリがないか探していました。


 私の趣味は写真を撮ることです――と言っても、高価な機材を使って芸術的な画を収めたり、普通の人が向かわない場所で特別なものを撮ったり、そんな大それたことはやりません。いや、〝やらない〟というより〝できない〟と言ったほうが正しいでしょうか。


 私は、しがない学生です。


 自分が学生ということを言い訳にして、趣味に全力ではないことに対して正当性を持たせようとするなんて、あまり好ましいものではないというのはわかっています。


 ですが、私には高級機材を買い揃えるようなお金もなければ、僻地へ向かうような情熱もありません(僻地に行こうとすると旅費がかかるので、これまたお金が足りないということもありますが)。私にあるのはせいぜい〝好奇心〟ぐらいでしょうか。


 自分が過ごす日常の中で自分が興味を持ったもの、そそられたものを撮って、自分の記憶だけでなく誰にでも見れる画像としてスマートフォンに保存する――それが私の行動理念です。日常で見かけるものに対して好奇心が、他人よりもほんの少しだけ強いだけです。


 写真撮影という趣味に対する私の姿勢は、ガチ勢ではなくエンジョイ勢――そう言った表現が適切だと自分でも思っています。

 そんな写真撮影エンジョイ勢の私は、いつもスマートフォンのカメラ機能を使って写真を撮影しています。


 スマートフォンを手にする前からお下がりのデジカメ(10年以上前のものです)を使って通学中に色々なものを撮るのが好きでした。だけど、古いデジカメは初心者の目から見てもわかるほどにちっぽけで、解像度も低かったので満足する写真を撮れることは少なかったです。


 しかし、そんなちっぽけなカメラを使っていたからこそ、念願の最新機種のスマートフォンを手に入れたときの感動が大きくなったと思えば、逆に良かったのかもしれません。

 実際にスマホを手に入れてしばらくの間は、あまりにも撮った写真が美しすぎて、いろんな物をいろんな風に撮影していました。もちろん、これはスマホのカメラ機能がすごすぎるからで、私の腕がいきなり上がったわけではないのですが。


 スマートフォンというものは本当にスゴイと思います。一昔前までは綺麗な写真を撮ろうとすると、きちんとした機材を使わなければならなかったのに、私のような初心者程度ならスマホがあれば十分に満足できるほどに、カメラ機能が完成されています。


 それに、本格的なカメラの機材は持ち運びやセッティングがとても大変と聞きます。その苦労は学校の修学旅行や運動会に来ていたカメラマンの方々が重そうな機材を頑張って運んで、いい画が撮れそうな場所に設置しているのを見ていただけでもわかります。


 自分が今生きてる時代が昔よりも良い――なんてことは言い切れませんが、少なくとも、写真撮影をこんなにも気楽に、簡単にできる時代に生まれてよかったなぁと思います。


 でも、だからこそ、私はあんな体験をしたのだろうと思います。


 写真撮影がスマートフォン一台で出来て――AR技術がまだ完璧ではなくて――SNSが活発で――そんな時代だからこそ、私はあんな体験をしたのだと思います。

 私が体験したのは、サイエンス・フィクションでもなければ、シリアス・フィアーでもありません。

 敢えて言うなら、すこし・ふしぎな体験です。

 それは、私がとあるカメラアプリを見つけてから始まります。

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